「んな勝手なルール、許可できる訳ねーだろっ」
「その通りだ!」
獄寺さんと笹川さんが激しい口調で責め立てた。二人の意見に同意するよう、他の仲間達も何度も何度も頷いて見せるが、
「…君達の意見は聞いてないよ。僕は名前チャンに聞いてるんだ」
それを見た白蘭の声色が僅かに変化するのが分かった。けれど、表面上の笑みは絶やさず、彼は私を見つめて再び訊ねて来る。――参加するかと。
私はぎゅっと拳を握り締めつつも、白蘭の周到性に脱帽していた。この男は私に交渉を持ち掛ける為に、敢えてガラスケースの中に閉じ込めたのだ。決して沢田さん達に邪魔れぬよう、自分の思い通りに事を運ぶ為に…。
白蘭の思い通りになるのは正直、面白くない。けれど、此処で私が断れば、白蘭と言う男は何をするか分からなかった。
「分かり……ました」
だから私は自分で決断を下す。私が『了解』の言葉を口にした瞬間、一斉に声を上げる仲間達。
「…駄目、名前」
「受ける事ないって!」
「「名前ちゃん!!」」
クロームさんは眉根を寄せ、山本さんは苦笑いを作り、京子さんとハルさんは……今にも泣き出しそうな顔をしている。
皆が反対する事は何となく予想していた。とても優しい人達だから…。でも、私は決めたの。白蘭の提案を受け入れると。それは別に、やけになっているからじゃない。
「――大丈夫です。私は信じていますから…。皆さんが、必ず“私を捕まえてくれる”と…」
仲間を信じているから。
そう。強い絆があるから怖くない。絆があるから信じられる。だから私は――逃げたりしない。
皆を安心させるよう、何時も通りの笑顔を向ければ、沢田さん達はぐっと言葉を飲み込み、それ以上は何も語らなかった。
「じゃあ話も纏(まと)まった事だし、そろそろチョイスを始めようか♪」
「えっ、此処で!!??」
こんな人の多い所で戦える訳がないと拒否する沢田さんに、白蘭は笑顔で告げる。人は避けたと。
確かに大都会の真ん中だと言うのに、人混みのざわめきや、車の音一つしない。鳥達の鳴き声だって。つまりこの場所は、
「チョイスの為に作られたバトルフィールド」
そう呟く入江さんの表情は、これまで以上に、とても真剣なものだった。
絆を信じて
(ついに73と歌姫を賭けた戦いが幕を開ける)
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