パーティーの日から数日が経過した。
すっかり日課となった庭仕事に精を出しながら、私は額に浮かんだ大粒の汗を拭う。
「もう、すっかり夏だな」
サンサンと照りつける太陽を見上げ、瞳を細める。
私がこちらでお世話になるようになり、季節は春から初夏へと移り変わっていた。
「そんな格好じゃ、体調を崩すよ」
そんな言葉と共に私の頭に何かが被せられる。
それは大きなつばの麦わら帽子。
驚き振り返ると、そこには半ば呆れ顔の雲雀恭弥さんの姿があった。
「毎日毎日よく飽きないね、君」
「折角任せて頂いているので」
「ふーん」
素っ気なく返事を返すと、雲雀さんは少し離れた木陰に腰を下ろす。
その様子を眺めてから、私は作業を再開させた。
いつもなら山本さんが側について一緒に作業を手伝ってくれるのだが、今日は朝から姿を見ていない。
雲雀さんがこの場にとどまっているという事は、今日の護衛は彼が担当なのだろう。
そう言えばここ数日、山本さんの姿が見えなくなる事がある。
山本さんが姿を消すと、何処からともなく現れ、視界の隅に雲雀さんの姿が写り込む。
常に傍らに控える山本さんとは対照的に、一定の距離を取る雲雀さん。
何か気に障る事をしたのかと心を痛めた事もあったが、群れる事を嫌う彼らしい距離感だと今なら解る。
「ナマエ ナマエ」
私の頭上を黄色い小鳥が飛び回る。
雲雀さんの小さな相棒、ヒバードだ。
元気に飛び回る姿は微笑ましくもあるが、気温も上昇しつつある。
「ヒバードも暑気(あつけ)にやられないようにね」
半分は自分に言い聞かせる意味で語りかけた言葉。
それをまるで理解したかのように、ヒバードは私の肩に止まるとその羽を休めた。
帽子のつばが日陰となって、ちょうど良い休憩スペースになっているみたい。
ヒバードの姿に癒されながら、私は三度(みたび)作業の手を動かした。
◇ ◇ ◇
「やっぱりここか」
こまめな休憩を挟みつつ、庭作業を進めていた時の事だ。
久方ぶりに聴くであろうその声に、私は反射的に顔を上げる。
「獄寺さん!」
ここ数日顔を合わせる事すらなかった彼との再会に、私は嬉々として駆け寄った。
名を呼ぶ声が少しばかり大きくなってしまったけれど、今日くらいは許して欲しい。
煩いと一喝されるかヒヤリとしたが、そんな心配をよそに彼は目の前の私を見下ろしたまま。
「獄寺さん?」
「今晩、10代目がお時間を作って下さるそうだ」
何の為に、とは聞かずとも解った。
『名前も聴きたい事があるだろうから、後日きちんと時間を作る。その時に──、話をしよう…』
沢田さんは数日前の約束を果たそうとしてくれているのだ、と。
「解りました。わざわざありがとうございます、獄寺さん」
「18時頃迎えの車を寄越す。それまでに準備しとけ」
「え?」
てっきりこの屋敷で話を伺うとばかり思っていた。
けれど迎えをやるという事は、何処かへ移動するという事。
迎えの時間から考えても夕食時、つまりディナータイムだ。
無関係な人々に危害が加わる事を何よりも嫌がる沢田さんの事。
マフィアという立場柄、家族連れが集うリーズナブルなお店を選ぶ確率は低い。
となると人の往来が少なく、なるべく人目を避けられる場所。
「もしかして、ドレスコードが必要なお店、でしょうか?」
恐る恐る訪ねる私に、獄寺さんは無情にも頷く。
当然といえば当然の事だった。
わざわざボンゴレのボスが足を運ぶのだから、高級ホテルかレストランに違いない。
仮に沢田さん自身は気にせずとも、よそのファミリーへの体裁がある。
獄寺さんを始め、周りの者からすればファミリーレストランという訳にはいかないだろう。