(効いていないのか!?)
自身の予想を遥かに上回る相手の力に、バジルは圧倒した。しかも、怪物の纏(まと)った炎は更に威力を増し、雨イルカへ襲いかかろうとして。
(しまった!)
雨イルカが大空の炎に飲み込まれようとしたその時、遥か後方に新たな炎が出現する。青の炎を纏ったそれは一直線に大空の炎へと向かって行き、
ドーン!!
上空で二色の炎が激突した。雨イルカを援護した青の炎。それは紛れもなく、同じ雨属性の――、
「雨燕!」
「お前だけが雨属性じゃないぜ、バジル」
「山本殿!!」
山本が開匣した雨燕だ。
バジルと山本。雨イルカと雨燕。双方の力が合わさった事より、怪物の力を圧倒。瞬く間に雨の炎が怪物を包み込んでいった。雨の炎に包み込まれた事により、動きを抑制された怪物は大空のボンゴレ匣へと戻っていく。
「名前さん!!」
手足の拘束が解け、動けるようになった綱吉は即座に名前の元へと駆け寄った。雨の炎によってずぶ濡れになった名前は、髪から幾つもの水滴を滴らせている。
「大丈夫!」
「私は……何とか」
「嘘!さっき右腕押さえてたよね?見せて!」
「平気です。少し掠っただけですから…」
「でも――っ」
「二人とも無事か!」
直後、二人の元へ了平達も駆け寄って来て、一体何があったのか説明を求められた。綱吉は名前の事を気にしつつ、今回の経緯を話し始める。
「――ではやはり、今のは沢田殿の匣兵器」
「うん。普通に炎を注入したつもりだったんだけど、いきなりあんなのが飛び出して来て…」
「ですが可笑しいです。匣は全て地球上の生物を模している筈。あのような怪物は存在しません」
確かにバジルの言う通りだ。あんな生き物、見た事も聞いた事もない。
「それに、あの匣兵器の行動。少し不可解ではありませんでしたか?」
「どういう意味?」
「思い出してみて下さい。拙者達が此処へ駆けつけた時、あの怪物は沢田殿の事しか眼中になかった筈です。しかし、拙者達が名前殿に近付こうとした瞬間、あの怪物は拙者達にも刃を向けた」
あれではまるで、名前の事を守っているようだったとバジルは呟く。
「ちょっと待て!何で主である10代目を襲った奴が名前を守ろうとすんだよ!……まさか不良品!?入江の奴、10代目に不良品を渡したんじゃ…っ」
「――いいや。今のはバジルの答えが正解だぜ」
刹那、聞き覚えのある声が響いて皆は弾かれたように背後を振り返った。
「それに、あれはツナの匣兵器の“本来の姿”じゃない。特に大空の匣はデリケートなんだ」
そこに立っていたのは跳ね馬の名に相応しい天馬の匣兵器に跨った人物。
「こんな開匣を繰り返していたら使い物にならなくなるぞ、我が弟分」
天翔る 天馬
(跳ね馬・ディーノ)
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