「見間違い…とかじゃあ、ないん…だよねι」
「そ、そうですね。私も見てしまいましたし…」
互いに顔を見合わせ、再び匣へと視線を落とす。
シー…ン。
現在は無反応。全く動く気配を見せない。可笑しいな。やはり沢田さんのいうように見間違いだったのだろうか?動いたように見えた錯覚とか?
――何て考えていると、
コトコトコト。
再び動き出す匣。
「もしかして、早く中から出たがってるとか?」
そう言って、沢田さんがリングに炎を灯して近付けると、ボンゴレ匣は更に激しく動き始めた。
(ほ、本当に中から出たがっているの?匣兵器が?自らの意志で?)
あり得ない…事ではない。この匣の中身が、アニマルタイプの兵器ならだが。アニマルタイプの匣には意志がある。それは獄寺さんの持つ嵐猫の瓜ちゃんが良い例だろう。
(でもそうすると、沢田さんのボンゴレ匣もアニマルタイプの匣兵器という事なのでしょうか?)
私はじー…と匣兵器を見つめる。どんな動物なのだろう?凄く気になる。
それは匣の持ち主である沢田さんも同じみたい。コトコトと忙(せわ)しなく動くそれを手にし、興味深そうに眺めている。
「ねえ、名前さん。開匣してみちゃ駄目かな?」
「え?で、ですが、明日まで開匣してはいけないと、リボーンさんに言われているのでは…?」
「う、ん。そうなんだけど、もし匣の中が窮屈で、息苦しいんだったら可哀想だなと思って…」
――全くこの人は…。
私はふっと笑みを零した。リボーンさんは良く沢田さんを『甘い』と言うけれど、私はそれが彼の美点だと思っている。
だからこそ彼の周りには多くの人が集まり、そして私も、共に歩んで行こうと思ったのだから。
「そう、ですね。様子を見る位なら良いかも知れませんね。危険なものではないと思いますし…」
「ありがとう名前さん」
危険なものではない。そう思ったからこそ彼の意見に同意した。私達を助けてくれる匣なのだから、安心だろうと信じて。
けれど、この同意が間違いだったと私は直ぐに思い知らされる事になる。
大空のボンゴレ匣
(異変が起きたのは、このあと直ぐの事だった)
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