「クロームさん。何かありましたか?」
「え!!??」
何時もの物静かな彼女からは考えられない、珍しい反応が返って来る。
不思議そうに彼女を見ていると、クロームさんは仄(ほの)かに目元を染めて、自室の中へと視線を巡らせた。その視線を追うように私も部屋の中を覗き込んで。そして見つける。彼女を変えた、小さな“救世主”の姿を。
「イーピンちゃん」
ベッドで眠るムクロウの隣で、同じように寝息を立てる小さな女の子。
私は直ぐに悟った。
「イーピンちゃんのお陰……だったのですね」
私の問い掛けに、クロームさんは小さく頷く。
「さっき、突然私の部屋に入って来て…あんまんを…分けてくれたの」
とても温かくて。まるで京子さん達みたいだったと、彼女は微笑む。
「私…ね、誰かに優しくされるのが初めてで、どうしたら良いのか分からなくて…。だから、ずっと…閉じこもってた」
「そうだったのですか」
「でもそれじゃあ駄目だって、分かったから。この子と…名前のお陰で」
「え?」
今度は私が驚く番だ。だって私は彼女の為に何もしていないのに。素直にそう告げるとクロームさんは静かに首を振った。
「名前は私が強くならなきゃいけない理由なの」
「私が?どうして?」
「だって貴女は骸様の“大切な人”だから―…」
私はひゅっと息を飲んだ。あの時の、骸さんの告白を思い出したから…。
「骸様の意識が途切れる寸前……言われたの」
『クロー…ム。どうか僕の代わりに……“名前”を――守って下さい』
その言葉を聞いた瞬間、心臓が張り裂けそうになった。骸さんの想いが。優しさが。痛い程、胸に伝わって来たから―…。
「骸様の願いが私の願い。だから私はもっと強くなって――貴女を守る」
不意にクロームさんの指先が私へと伸びる。その指は躊躇(ためら)いがちに私の頬に触れ、いつの間にか溢れ出していた涙を優しく拭ってくれた。
「それに名前は…私の初めての友達だから///」
そう言って差し出された彼女の右手。それは初めて10年前のクロームさんと顔を合わせた時、私が取った行動と同じで。
少しでも疎外感を感じた自分が恥ずかしい。彼女達はこんなにも私の事を想ってくれているのに。
それが分かった事が嬉しくて。私は返事を返す代わりに、彼女の身体を思い切り抱き締めていた。
あたたかい場所
(不思議。名前の傍は、とても居心地が良いの)
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