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95.あたたかい場所 ****


「クロームさん。何かありましたか?」

「え!!??」



何時もの物静かな彼女からは考えられない、珍しい反応が返って来る。

不思議そうに彼女を見ていると、クロームさんは仄(ほの)かに目元を染めて、自室の中へと視線を巡らせた。その視線を追うように私も部屋の中を覗き込んで。そして見つける。彼女を変えた、小さな“救世主”の姿を。



「イーピンちゃん」



ベッドで眠るムクロウの隣で、同じように寝息を立てる小さな女の子。

私は直ぐに悟った。



「イーピンちゃんのお陰……だったのですね」



私の問い掛けに、クロームさんは小さく頷く。



「さっき、突然私の部屋に入って来て…あんまんを…分けてくれたの」



とても温かくて。まるで京子さん達みたいだったと、彼女は微笑む。



「私…ね、誰かに優しくされるのが初めてで、どうしたら良いのか分からなくて…。だから、ずっと…閉じこもってた」

「そうだったのですか」

「でもそれじゃあ駄目だって、分かったから。この子と…名前のお陰で」

「え?」



今度は私が驚く番だ。だって私は彼女の為に何もしていないのに。素直にそう告げるとクロームさんは静かに首を振った。



「名前は私が強くならなきゃいけない理由なの」

「私が?どうして?」

「だって貴女は骸様の“大切な人”だから―…」



私はひゅっと息を飲んだ。あの時の、骸さんの告白を思い出したから…。



「骸様の意識が途切れる寸前……言われたの」





『クロー…ム。どうか僕の代わりに……“名前”を――守って下さい』






その言葉を聞いた瞬間、心臓が張り裂けそうになった。骸さんの想いが。優しさが。痛い程、胸に伝わって来たから―…。



「骸様の願いが私の願い。だから私はもっと強くなって――貴女を守る」



不意にクロームさんの指先が私へと伸びる。その指は躊躇(ためら)いがちに私の頬に触れ、いつの間にか溢れ出していた涙を優しく拭ってくれた。



「それに名前は…私の初めての友達だから///」



そう言って差し出された彼女の右手。それは初めて10年前のクロームさんと顔を合わせた時、私が取った行動と同じで。

少しでも疎外感を感じた自分が恥ずかしい。彼女達はこんなにも私の事を想ってくれているのに。

それが分かった事が嬉しくて。私は返事を返す代わりに、彼女の身体を思い切り抱き締めていた。



あたたかい場所


(不思議。名前の傍は、とても居心地が良いの)


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