考えてみれば、並中の校歌は過去から来た沢田さん達とも共有できる唯一のモノではないか。それに気付けた事が嬉しくて、私は自然と夕焼け空に向かって歌を奏でる。
緑たなびく 並盛の
大なく小なく 並がいい
いつも変わらぬ
健やか健気
ああ ともに謳おう
並盛中
そこまで口ずさんだ時だった。背後でコツリと靴音が響き、それと同時に「ワオ」と言う聞き覚えのある声が耳に届いた。
弾かれたように背後を振り返ると、そこに立っていたのは案の定、学ラン姿の雲雀恭弥さん。ヒバードに続いて、雲雀さんまで現れるとは思わなかった私は、心底驚く。
(というより、もしかしなくても雲雀さん達の方が先約だったのでは!?)
気付いた時には遅かった。雲雀さんはゆらり、ゆらりとこちらに近付いて来て。これは間違いなくお怒りのご様子だ。彼のテリトリーに無断で入った事をお怒りなのだ。
「素晴らしい歌声だね」
……と、思っていたのだけど何だか様子が違う。
「僕のテリトリーに入って来た動物を咬み殺しに来たんだけど…貴女は特別に許してあげるよ」
どうやら咬み殺されずに済みそうです。おまけに、並中の校歌を絶賛されてしまいました。
(そう言えば、この時代の雲雀さんと初めてお会いした時も、同じような事がありましたね)
何て、思い出し笑いをしていると―…。
「名前さーん!!」
反対の屋上から私を探す声が聞こえて来た。いけない。皆さんに黙って此処に来ていたのだった。
「ごめんなさい、雲雀さん!私、そろそろ…」
戻らないと。そう言って踵を返そうとしたが、
「行く必要はないよ」
何故か手首を掴まれ、動きを封じられてしまう。
「言った筈だよ。貴女は特別だって…。だから貴女は此処に居れば良い」
当然、私の手首を掴んでいるのは雲雀さんだ。でも余りに雲雀さんらしからぬ行動に私は戸惑う。
――と、その瞬間。
「まさか、お前まで名前を気に入るとはな」
突然、頭上から男の声が降り注いだ。雲雀さんは私を背後に隠し、瞬時にトンファーを構える。
「まあ、待て恭弥。そう慌てなくても、名前に手は出さねぇし、みっちり鍛えてやっから」
吸水塔に凭れ掛かり、私達を見下ろしていた人物。それは紛れもなく私も良く知るあの人だった。
並盛の休日
(この人は今日から僕のだから…。手を出す者は誰であろうと咬み殺す)
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