沢田さんを筆頭に、校舎の中へと足を踏み入れる仲間達。その姿を見つめながら私もゆっくりと最初の一歩を踏み出した。
「へえ。10年間増築も改築もされなかったんだ」
「健在って感じだな♪」
そんな会話を交わしながら廊下を進み、沢田さん達の向かった先は2‐Aと書かれた教室だった。
同じクラスらしい沢田さん・獄寺さん・山本さん・京子さんは懐かしそうに自分の席に腰掛ける。
笹川さん・ハルさん・ビアンキさんは教壇に立って、そんな沢田さん達を楽しそうに眺めていて。
「………」
だけど私は、教室に入る事さえ出来なかったの。
◇ ◇ ◇
まるで逃げ出すようにその場を離れ、私は今、夕焼け空の真下にいる。
何気なく訪れた並中の屋上。そこから見渡す町の景色は何もかもが初めて目にするモノばかりだ。
「当たり前…ですよね」
私は、この並盛町の人間ではないのだから…。
おまけに彼らと違って、私はこの時代の…つまり未来の人間。住む世界も、生きて来た時間も彼らとは異なる。記憶の共有なんて出来る訳がない。
(初めから分かっていた事なのに…。並盛の町を見て回れば、それを思い知らされる事なんて)
真っ赤に染まる町並みを眺めながら、私はぎゅっと両手を握り締める。
やはり来なければ良かったと後悔しても仕方ない。それに「疎外感を感じるから行きたくない」だ何て、そんな子供じみた我が侭、口が裂けても言える筈がないのだから。
「そう…言える訳ない」
自分に言い聞かせるように、そう呟いた時だ。
突然、右肩に違和感を感じて私は顔を向ける。するとそこに居たのは…?
「ヒバー…ド?」
黄色いふわふわの小鳥だった。どうして此処にヒバードが?確かこの子は雲雀さんと行方をくらませた筈なのだけど…。
驚きと戸惑いで瞳を揺らす私を、ヒバードも粒やな瞳でみつめてくる。
「もしかして…心配……してくれているの?」
「ナマエ シンパイ」
「ふふ。ありがとう」
指先でチョイチョイと黄色の羽を撫でてやると、ヒバードは嬉しそうに瞳を閉じた。その姿を見ていると、不思議と気持ちが浮上して来て…。
「ぁ」
刹那、とある曲のフレーズが脳裏を過ぎる。
「そう言えば、最初に並盛の校歌を教えてくれたのはアナタだったね」
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