[携帯モード] [URL送信]
10.君のために… ****

予想すらしなかったリボーンの言葉に、辺りが静まり返る。
呼吸の音すらも途絶えた静寂の中、それを破ったのは雲雀恭弥だった。

「成る程ね。それなら全ての辻褄(つじつま)が合う」
「どういう事だ、雲雀」
「考えてもご覧よ、山本武。死んだ人間を蘇らせる能力──。
 もし、そんなものが本当に存在するとしたら、どうなると思う?」
「どうなる、て……」

近年、医学の進歩によって人類の寿命は延びつつある。
かつて死に病と呼ばれた病気も、現在の医療ならば直る見込みも各段に上がった。
けれど、人の死というのは病だけに限らず、不慮の事故や気象変動による天災。
どんなに財力があろうとも、どうにも出来ないケースは少なくないのだ。

ボンゴレファミリーは裏の世界と呼ばれる者の集まりで、彼らと繋がりがあるのもまた闇に生きる者達。
そういった連中は政界や財界人との繋がりも深い。
真っ当に生きる者ならまだしも、金や権力に物を言わせるものならば、どうだろう?

人の生命を左右する力。
そんな神のような力が手に入るとすれば、きっと喉から手が出るほど欲しいに決まっている。

「争いの火種になる事は間違いないだろうな」

だからかと、綱吉もようやく納得が行った。
どれだけ探そうと、見つけられない歌姫の情報。
知っている者すら現れない不可思議な訳。
全てが歌姫を守るため、何者かが行った隠蔽(いんぺい)行為だった訳だ。

「──それで?君は彼女が力を使うところを目撃したんだろ?…沢田綱吉」

その言葉に綱吉はハッと我に返る。
振り向けば、腕を組んだまま壁にもたれ掛かる雲雀の姿が目に入った。
雲雀は閉じていた目をゆっくりと開け、綱吉を見据える。

「彼女の能力は……、どうだったんだい?」

問われた瞬間、綱吉の脳裏に蘇る、過去の光景。
突然現れた名前。
敵に囲まれる綱吉達。
銃口が向き、名前を庇おうと引き寄せた瞬間、辺りに響いた美しい歌声。
そして次に綱吉が見たのは、周りで倒れる男達の姿。

その力は、命を与える力とは、程遠いもので──…。

「…じゃあ、名前は──」

獄寺が強く拳を握り込む。
その横で山本が悔しげに唇を噛み締めた。

「決めつけるのはまだ早いぜ」

落胆の色が漂う室内に、凛とした声が響き渡る。
開け放たれた扉からコツリコツリと靴音を響かせ、部屋の中央に立ったのは、
キャバッローネファミリーのボス、跳ね馬ディーノだった。

「リボーンの話はあくまで過去の歌姫の、それも噂の類いに過ぎない。
 実際に同じ能力が受け継がれてるかも解らねー、だろ?」

ディーノは綱吉の側に歩み寄ると、その肩にポンと手を置く。

「現にツナ。お前と歴代のボンゴレとじゃ、使える力も技も異なる。それは歌姫も同じ筈だ」

ディーノの力強い言葉に、その場に居た全員が息を飲んだ。
それと同時に彼らの視線がボンゴレ10代目、沢田綱吉へと注がれる。
全員の期待を一身に浴びた綱吉は、一瞬の沈黙の後、静かに決断を下す。

「5日後、守護者を全員招集する」

張り詰めた空気が辺りに漂う。

「獄寺くんと骸は改めて俺と一緒に歌姫の資料、証言を集めて欲しい」
「はい、10代目!」
「仕方ありませんね」
「山本は先輩とランボに連絡を。それから引き続き名前の護衛を頼む」
「解った!」
「雲雀さん。貴方は山本と一緒に名前の警護に付いて下さい。
 狙われた理由がはっきりしない以上、屋敷の中でも一人で行動させる訳には行きません。
 それに何かあっても雲雀さんなら安心ですから」
「……君に言われるまでもない…」

的確に守護者に指示を出す綱吉の姿をリボーンは黙って眺めていた。
その様子をディーノが傍らで見守っていて。

「ニヤニヤすんな。お前はとっとと会場に戻りやがれ。
 ツナの変わりに仕切ってんだろうが」

視線に気付いたリボーンが、鋭い蹴りをディーノにお見舞いする。
見事に一撃を食らい、痛みに顔を歪めるディーノの横を、リボーンは一人出口に向かって歩き出す。
不意に名前の笑顔が頭に浮かんで、リボーンは口元を綻ばせた。



君のために…

(今度こそ、必ず守ってみせる)


[←][→]

あきゅろす。
無料HPエムペ!