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10.君のために… ***

“幸福をもたらす平和の象徴”。
そう謳われ、歴代のボスと共にボンゴレを支えて来た女性がいた、と。
先代、9代目から唯一一度だけ、彼女の話を聞いた事がある。

『──時が来れば、君の元にもきっと現れるさ……、綱吉くん』

そう9代目に言われたのは一体何時の事だっただろう。
あまりにも前の事過ぎて、夢だったのではないかと疑いたくなる程に。
いや、いっそ歌姫の話自体が全て夢で、そんな女性は存在しない。
そう言われた方が現実味があるとさえ思えてしまうくらいだ。

「なあ、歌姫ってほんとに存在するん、だよな?」

まるで綱吉の気持ちを代弁するかのように、皆に問いかけたのは山本だった。

「ツナが9代目から話を聞いた後、俺達だけでも色々調べてみただろ?
 でもそんな話はどこを探しても出て来なかった。勿論その頃は本気で探してなかったってのもあるが…」

確かに山本の言う通りだ。
当時の綱吉達はまだ半信半疑で、歌姫についても事務処理の片手間に調べていた程度。
本気で取り組むようになったのは、ここ数年の話だった。

「なあ小僧。本当のところ、どうなんだ?」

周囲の視線が一斉にリボーンへと向けられる。
窓辺に立ったまま、それまで傍観していた年長者が静かに口を開いた。

「──…存在はする」
「その根拠は?」

間をあけずして、綱吉が鋭く切り込む。
リボーンは視線だけを綱吉に向けると、再び口をつぐんだ。
珍しく言い淀(よど)む彼の姿に、綱吉は眉根を寄せる。

前々から感じていた妙な違和感。
歌姫の話題になると、リボーンは途端に距離を置こうとする。
もし彼が距離を置く理由があるのだとすれば、可能性はただ一つ。


「オレ自身が歌姫を知ってるからだ」


やっぱりそうか、と綱吉は独り言(ご)ちる。
獄寺と山本は言葉を失い、雲雀と骸は静かに黙り込んだまま。

「そんな話、初耳なんだけど?」

僅かに怒気を含ませた綱吉が、そう訪ねた。

「話すつもりがなかったからな」
「それじゃあ急に気が変わった理由は?
 名前が──、危険にさらされたからか?」

ふつふつと湧き上がる怒り。
それはこれまで傍観していたリボーンへなのか、
それとも、それに気付かなかった綱吉自身へのものなのか。

「リボーンは知ってたのか、名前が本物か、そうじゃないのか」

彼らしからぬ語尾の強さに、獄寺と山本は心配そうに綱吉を見つめた。
流石のリボーンも観念したのか、諦めたように小さく息を吐き出す。

「言っておくが、オレが知ってるのは“歌姫と呼ばれていた奴“の話だ」
「……歌姫と“呼ばれた“じゃなくて?」
「ああ。オレがボンゴレと深く関わるようになった頃には、そいつは既に隠居した後だったからな」

“9代目歌姫“。
そう呼ばれていたと言われる女性をリボーンは知っていたと言う。

「隠居って、そんなに高齢の方だったのか?」
「いや、隠居するには若すぎる歳だったって話だ」
「そんな若さで歌姫を退く理由が何かあったのですか?」

そう問うたのは、それまで傍観していた骸だ。
リボーンは一瞬だけ骸に視線を向けると、静かに瞳を閉じる。

「おそらく“能力“が関係してたんじゃないかとオレは思ってる」

リボーンの返答に、その場の全員が疑問符を浮かべた。

「さっきも言ったが、オレが知ってるのはアイツが現役を退いた後だ。
 どんな能力か見た事も直接聞いた事もねー。だからこれはあくまで噂の話だが、歌姫は──…」

を操る能力“を持つ、と。

「いのち、…て、そんな事──」
「言っただろ?あくまで噂話、都市伝説の類だ。
 当時はまだ歌姫の話題が制限される前だったからな。彼女の事を口にする者も居たんだ」
「おかしいですね。これでもかなりの人数を問い詰めたつもりだったのですが…?」

これまで情報収集を行っていた骸が訝しげな顔をする。

「知っていたのはボンゴレ内でもほんの僅かな人間。当時主要とされていた年寄りばかりだ。
 今はどいつも隠居して次の世代が継いでるだろうよ」

つまり骸が問い正していたのは、おそらく何も知らない、後継者ばかりだったという事か。

「あの──、命を操るって一体どんな能力なんですか、リボーンさん…」

獄寺が問う。
リボーンは僅かに躊躇った後、重い口を開いた。

「……嘘か本当か、瀕死の者や、あまつさえ死んだ人間を蘇らせる力だと聞いた事がある」


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