例え無理だと分かっていても、願わずにはいられなかった。この世に神様が居るのなら――、
(お願いです!時間を…時間を止めて下さいっ)
けれど無情にも時は過ぎ、最後のカウントが告げられた。何も出来ない自分が歯痒くて、唇を噛み締めながら私はぎゅっと瞳を閉じる。刹那、
パアアン!
辺りに響いた銃声音。
「…入江……さ、ま?」
チェルベッロの戸惑う声。何が起きたのか理解できなくて、私は閉じていた瞳をハッと見開いた。
瞬間、まるでスローモーションのように床に倒れる二人の姿が目に入る。
「悪く思わないでくれ。少し眠って貰うだけだ」
そして、彼女達を撃ったであろう人物を私はゆっくりと振り返った。
「はあぁ〜…暑い。…もうクタクタだ…」
瞳を丸くする私の横で、銃を投げ捨て、髪を乱し、着ていた隊服を着崩していく、その人物。
「一時はどうなるかと思ったよ。沢田綱吉君とファミリーの皆さん」
それは紛れもなく私達の宿敵である“入江正一”……の筈なのだけど、
「ぁ、緊張がとけて、ひ…膝が膝が笑ってる…」
彼は足を震るわせながら、その場に座り込んでしまった。私はいつの間にか自由になっていた右手を胸の前で握り締める。
「よく此処まで来たね。君達を待ってたんだ。――僕は君達の味方だよ」
そして彼が告げた“味方”という言葉に私は絶句。それは、この場にいた全員も同じであった。
「オレ達の…味方!?」
「う、うん。そう何だ」
「ちょ…!味方ってどういう事!?だって貴方はミルフィオーレの幹部でっ、オレ達の敵で…っ」
混乱する沢田さん。でも当然の反応だと思う。私だって全く今の状況に頭が付いていかないもの。
これまで敵だと思っていた入江正一。彼を標的として、この基地にだって潜入したというのに。それが突然“味方”だなんて言われても……。
「10代目!また罠かも知れません…っっ」
「そうだっ、奴を拘束しろ、沢田!!!!」
未だケースに閉じ込められたままの獄寺さんとラルさんが、そう叫ぶ。
私も二人と同じ意見で『信じられない』と思っている筈なのに、何故かその反面『罠ではない』と感じている自分がいた。
「んん〜…、急に信じろって言っても無理なのは分かるよ!だけど話を聞いて欲しいんだっ」
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