右手の指に填(は)めていた筈のリングが一つ残らずなくなっていたのだ。
「抵抗しようとしても無駄さ。お前達のリングと匣兵器は全て没収した」
入江の言葉通り、彼の手の平には押収したボンゴレリングが輝いていて。それを見た獄寺達は勿論…綱吉も言葉を失った。
絶望という単語が皆の心に生まれ掛けたその時、まるでその言葉を打ち消すようにラルが叫ぶ。
「さ、わだ…構わんっ、やれ!!貴様の手で装置を破壊しろっっ」
「そ、そうです10代目!丸い装置を…。そいつをぶっ壊せば過去に帰れるかも知れません!!」
ラルに続けと綱吉を後押しする獄寺。しかし、それに待ったを掛けた者が居た。クロームだ。
「ダメ」
「てめー!!この状況で命が惜しくなったのかっ」
「……違う…でも!」
「全くお前達の無知さ加減には呆れるばかりだ。僕がお前達の行動を予想しなかったと思うのか」
「どう言う意味だ!」
ラルは訝しげな顔で、入江を睨みつける。
「お前達が自分を犠牲にする事など初めから想定済みだ。…だから、お前達にも特別な“あるモノ”を用意したのさ」
何処からともなく機械音が響き渡り、全員が周囲を見回した次の瞬間…白い装置の傍に、再びカプセル型のケースが出現する。けれど、その中に捕らわれている人物を見て、綱吉は声を震わせた。
「どう、して…お前が」
「どうして?可笑しな事を言う。彼女が我々の手に渡った事を、お前は既に知っていた筈だが?」
そう。ケースの中で力なく座り込むのは――、
『名前(さん)!!』
その場に居た殆どの者が一斉に彼女の名を叫んだ。その声に名前も反応し、大きく瞳を見開く。
「彼女こそがお前達に対する贈り物だ。人質と言う名の……特別なね」
「入江っ、貴様ああ!!」
「歌姫がこちらの手にある限り、お前達は下手な真似が出来ないだろう。特にアルコバーノ。歌姫を主に持つお前達はな」
「……くそっ…」
名前を人質に取られては入江に逆らう訳にはいかない。ラルは苦痛の表情を浮かべながら、悔しそうに唇を噛み締める。
「それにこの装置を破壊しようだ何て愚かにも程がある。これを破壊すれば困るのはお前達だぞ」
「どう言う事だ!」
「見せてやろう。その目で確かめるがいい。この装置に入っているのは」
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