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10.君のために… **

聞き間違い、という訳ではないのだろうか。
確かに彼、沢田綱吉はこう言った。
私の事を“知っていた“と。

「…それって、どういう──」
「10代目!お話中失礼します!」

問いかけようとした私の声を、部屋へ飛び込んで来た男性の声が遮る。
沢田さんは握っていた私の手を離すと、すぐさま男性に向き直った。

「どうかした?」
「少々問題が発生しました。対応をお願いしたく…」
「解った。直ぐに行く」

沢田さんは改めてこちらを向くと、申し訳なさげに微笑する。

「ごめん、行かないと」

私はフルリと首を振った。
色々あってすっかり忘れていたが、今はまだ大きな集まりの最中だ。
主催である沢田さんが長く席を外す訳にはいかない。

「名前も聴きたい事があるだろうから、後日きちんと時間を作る。その時に──、話をしよう…」
「はい」
「この後はどうする?怖い思いをしただろうし、部屋に戻って休んでいても……」
「いえ。お手伝いをすると決めたのは私ですから。最後まで手伝わせて下さい」
「解った。でも一人じゃ不安だろ?俺も心配だから、クローム、名前の事を頼む」
「はい、ボス。……行きましょう…名前…」
「…はい」

小さくお辞儀をしてから、私はクロームさんと共に部屋を後にする。
本当に色々な事が有りすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

(何かしていた方が気が紛れる)

だから会場へと戻った私は、一心不乱に働いた。

◇ ◇ ◇

「──それで?わざわざ幻術を使ってまで名前を出て行かせた理由は何なんだ、骸?」

彼女達が出て行った直後の事だ。
綱吉の視線は真っ直ぐに骸へと注がれる。
刹那、綱吉の横に立っていた男の姿がゆらゆらと揺れ、まるで蜃気楼のように消えてゆく。

「おやおや。随分な物言いですね、沢田綱吉。せっかく助けて差し上げたと言うのに…」
「頼んでない」
「全く素直じゃありませんね。あれ以上の内容を、まだ彼女に話すつもりはなかったのでしょう?」
「そっちこそ話があるのは本当なんだろ?さっさと内容を言え」
「でもよツナ。ディーノさんの所に行った獄寺がまだだぜ?話ならアイツを待った方が──」
「俺ならいるぜ」

山本の声に重なる形で部屋に入って来たのは、先程の一件をディーノに報告に行っていた獄寺だった。

「10代目、さっきそこで名前とクロームに会いましたけど、二人で行かせて大丈夫なんスか」
「心配ない。クロームの実力はボンゴレ内でもトップクラスに入るから」
「そう、ですね」

何時も綱吉には従順な獄寺が、今日は珍しく納得出来ていない様子だ。
それだけ名前の事を心配しているという事だろう。

「それでディーノの方はどうだったんだ、獄寺」

リボーンが問う。

「10代目に言われた通り、跳ね馬には事情を説明して、後の事を任せて来ました。
 …奴も相当頭にキたみたいでしたよ」
「そう」

あの人も相当名前の事を気に入ってるようだから…。
心の中でそう漏らしつつ、綱吉は小さく溜息をこぼす。

「…彼の事はどうでもいいよ。…それより話を続けてくれる?」
「おや?珍しいですね。君が僕に話掛ける何て…。そんなに気になるのですか?」
「…君はその為に好きでもないマフィアの本部を訪れたんじゃないのかい?」
「クフフ。…君は相変わらず腹立たしい男ですね……、雲雀恭弥」

寒気がする程の殺気を飛ばし合う二人に「まあまあ」と山本が仲裁に入る。

「お前らその位にしとけって。
 それより骸。お前、“あの事“に付いて調べてたんだろ?話ってその事についてじゃねーのか?」

その場に居た全員が骸を凝視する。
当の骸は、やれやれ…と肩を竦めて静かに口を開いた。

「貴方達が過去に調べた通り、何も出て来ませんでしたよ」
「何も?」
「ええ。資料や文献、ボンゴレに限らず少々手荒な真似をして方々に聴き回ってみたのですが……何も」
「それでも駄目、か」
「…と言うか、存在は愚か噂話の一つすら出て来ない」

それほどまでに真っ白という訳だ。
我々が探す“歌姫“という存在が。

──歌姫。
それは綱吉達10代目ボンゴレファミリーが長年探し続けた唯一の存在。


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