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86.離れた 手 ***


刺が全身に突き刺さる。そう思った時だった。突然、フワリと身体が浮いて誰かの肩に担がれる。



(……だ、れ…?)



薄れる意識の中、必死に瞼を開けると、目の前には青ざめた顔でこちらを見る草壁さんと、そして驚いたように瞳を見開く雲雀さんの姿があって。

それじゃあ、私を助けてくれたのは――…。





「歌姫は貰って行く」





“幻騎士”しか居ない。



「名前さん!!!」



草壁さんの叫び声が響く。逃げなきゃ。そう思うのに、やはり身体は言う事を聞いてくれなくて。



(…ひ、ばり…さ、ん)




無意識に伸ばした右手。けれどその手が掴まれる事はなく、私はそのまま……意識を手放した。










◇ ◇ ◇


名前が幻騎士と消える直前、助けを求めるように彼女の右手が伸ばされた。でもその手を掴む理由は雲雀にはない。

ない――筈なのに…。



(…この手は……何?)



まるであの手を掴もうとするかのように、雲雀の右手は空中をさ迷っていたのだ。それも、自分では気付かない内に…。

雲雀はグッとトンファーを握り締め、幻騎士を追おうと床を蹴る。



「恭さん、どちらへ!?」



それを見た草壁が咄嗟に止めに入った。何故なら彼の進もうとしている方角は、増殖した球針態で塞がれていたからだ。



「…妙な技を使う丸い眉毛の彼にやられっ放しだからね。…それに、」



――まだあの人に全ての借りを返していない。



「しかしこの状況では」



無理です!草壁はそう言葉を続けようとしたが途中で口を噤(つぐ)む。

それは雲雀の目が、消えた名前を追っているように見えたから。

まさか出会って間もない名前の事を気にするとは…。やはり強い縁で結ばれた“守護者と歌姫”。

雲雀なりに何か感じるものがあったのだろう。でなければ、あの雲雀が誰かの為に動くなど絶対にありえない事だ。だが、今の雲雀では幻騎士はまだ勝てる相手ではない。

兎に角、今の状況を本部に伝えて置かなければ!



「緊急連絡。ボンゴレアジト、ボンゴレアジト!応答して下さい!!リボーンさん!ジャンニーニさん!聞こえますかっ」



どうか応答を――!!



離れた 手


(歌姫が奪われました)


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