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86.離れた 手 **


“覚悟が必要”

確か私はそう聞いた。10年前のディーノさんは、既にその事を10年前の雲雀さんに教えて――、



「ムカツキ」

「「(違う!!!)」」

「……えっと…ι」



いた訳ではないみたい。

でも現に雲雀さんの纏う炎は大きくなっているし、彼にとって“覚悟”と“ムカツキ”は同じなのだとディーノさんは考えたのかも知れない。

そして今、私や獄寺さん、クロームさんに助けられた事によって、彼の怒りは頂点に達した。匣を開けるなら今しかない。



「…副委員長。やはり先に剣士の彼を倒すよ」



そう告げた雲雀さんの手には、いつの間にかオリジナルの雲ハリネズミの匣が握られている。



「君の言う事を信じよう。……やり方は……、見てたから分かるさ」



そして先程幻騎士がやって見せたように、リングを匣に差し込んだのだ。

瞬間、物凄い勢いで炎が匣へ注ぎ込まれて行く。あそこまで大量の炎が注入されるのは初めての筈。一体何が起こるのか。その場に居る誰もが固唾を飲んで見守っていた。

暫くすると開いた匣からポテッと何かが落下。

見るとそれは紛れもなく雲雀さんの匣兵器・雲ハリネズミなのだけど、何だか様子が可笑しい。



『…キュ…ウウ…』



頬はほんのり赤く染まって、足はふらふら。まるで酔っているみたい。おまけに背中の針は伸縮を繰り返し、それ自体が生き物のようだ。こんな事今までなかったのに…。

疑問を抱く私の横では雲雀さんが跪(ひざまず)き、ハリネズミさんに向かって手を差し出す。

するとハリネズミさんも、鼻をヒクヒクさせ、傍に居るのが自分の主だと認識。嬉しそうに『キュ♪』と振り向いた瞬間、


ブシュ。


勢い余って主人の手を刺傷。赤い雫が雲雀さんの手の平から流れ落ちる。それを見たハリネズミは瞳をウルウルと潤ませ、



『キュアアアアア!!』



“暴走”した。

自身の主を傷つけてしまったショックから、制御不能となった雲ハリネズミは、球針態へと姿を代え、次々に増殖して行く。物凄いスビードだ。

ハリネズミの傍に居た雲雀さんと幻騎士は咄嗟に背後へ飛び退くが、



「…く、」



力を使い果たした私は動く事が出来ない。逃げなければ。そう思うのに、手足に力が入らないのだ。針はもう目前。



(このままでは…)


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