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86.離れた 手


間近で灯る、目を開けていられない程の凄まじい炎。これが雲雀さんの持つ本来の波動。そして、その破格の波動を受けても尚、砕ける事なく炎を灯すランクAオーバーのボンゴレリングの力。



(これなら、これなら何とかなるかも知れない)



そんな希望を抱いたのは私だけではない。



「恭さんっ、匣です!足下にある匣(はこ)に炎を注入して下さいっ」



雲雀さんの部下である草壁さんもまた同じ。何とか応戦して貰おうと、雲雀さんを導いたつもりが、それが彼には逆効果。



「…何時から命令するようになったんだい?草壁哲矢…。……やはり、君から咬み殺そう…」



更に逆鱗に触れてしまったらしい。これには流石に草壁さんも慌てていた。呼び方も何時もの「恭さん」から「委員長」に変わっていたりして。私の知らない10年前の二人を垣間見た気がした。

その時、クロームさんの肩に乗っていた匣兵器のムクロウがバタバタと羽を羽ばたかせる。直後、



「……っ…名前っ、…雲の人っ、後ろ…!!」



クロームさんの叫び声が。彼女の言葉に反応し、振り返った刹那、目の前で爆発が起こって…。

突然の出来事に、ぎゅっと目を瞑(つむ)る事しか出来なかった私。だけどまた身体は何ともない。



(一体、何が…?)



不思議に思い、瞳を開けると、目の前に見慣れた…けれど何時もより一回り小さな背中を見つけて、言葉を失った。両手に灯した炎を盾に私を庇うように座り込んでいたのは、この時代の人ではない…若き雲雀恭弥さん。



「どう、して…」



庇われる理由が思い浮かばなくて、困惑した瞳で彼を見つめれば、雲雀さんは目を合わせる事なく、小さな声で「一つは返したよ」とだけ告げた。

そんな彼の視線は、私達に不意打ちという名の攻撃を仕掛けた宿敵・幻騎士に向けられたまま。



「何度も仲間に救われるとは……ツキがあるな。…だが、もう次は…」

「…仲間?誰…それ?」



幻騎士の言葉を遮りつつ、雲雀さんがゆらりと立ち上がった次の瞬間。


ボウウウウ。


彼の纏(まと)た紫の炎が、更に大きさを増したのだ。余りの眩しさに目を開けていられない。


「…跳ね馬が言ってた通りだ。リングの炎を大きくするのは……」


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