騒動の後、私はパーティー会場の奥に設置された豪華な一室へと案内される。
部屋の中では落ち着きなく辺りを歩き回る沢田さんの姿が目に入った。
私達が戻って来た事に気付くなり、彼は慌てたようにこちらへ駆け寄って来て。
「名前、大丈夫!!怪我は!?」
目視で顔や腕に傷がないか確認する沢田さんに、私も「大丈夫です」と笑顔で答える。
私の返答や、どこにも異常がない事を確認した後、安堵したように大きく息を吐き出す沢田さん。
「ごめん!」
そして突然目の前で頭を下げられ、私は驚きのあまり大きく目を見開いた。
「今回の件はどう考えても俺の判断ミスだ。
内輪揉めだからと、その事ばかりに気を取られて名前の事と関連付けて考えもしなかった」
「ツナだけの所為じゃねーよ。俺達も渋るお前を焚き付けた……」
「そうです10代目!10代目お一人の責任じゃ──っ」
「良いんだ、山本、獄寺くん」
二人の会話を遮ったのは沢田さん本人で。
彼は苦しそうに眉根を寄せ、両手を強く握り締めた。
「あの時、誰が何と言おうと、少しでも名前に危険が及ぶ可能性があるなら今回は中止すべきだったんだ。
でも俺はその判断を誤り、結果名前を傷付けた。……全て俺の責任だ――ごめん」
ギチリと握った拳が音を立て、その握力の強さを物語っている。
こんなにも辛そうな沢田さんの表情を、私はここへ来て始めて見た気がした。
何時も穏やかに微笑んでいる印象しかなかったから──。
だからだろうか。
そんな顔をしないで欲しいと、そう思った。
私は固く握り締められた彼の拳を、そっと両手で包み込む。
「沢田さん。私、信じていましたから──。
“俺達が必ず守る”と言ってくれた、貴方の言葉を……」
寧ろ、謝らなければならないのは私の方。
始めて会った時。
此処に残って欲しいと言ってくれた時。
そして、今回の事。
その全てが私を気遣っての事だったというのに──。
一度危険な目にあっているにも関わらず、どこか他人事のように考え、私は警戒を怠った。
もっと危機感を持って行動しなければならなかったのだ。
「もし誰かが責を負うなら、それは──、私自身の“甘さ“のせいです」
だから誤る必要なんてない。
はっきりとそう断言する私の表情を、沢田さんは驚いたように見つめていた。
そんな沢田さんに私は最大級の笑顔を返す。
「ありがとうございます、沢田さん。
出会って間もない私の事を、こんなにも真剣に考えて下さって…」
沢田さんは暫くの間黙ったままだったけれど、ふっと口元を綻ばせ、
「名前は──、強いな。
俺なんかより、ずっと……」
何時も通りの微笑みを私に見せてくれる。
普段の沢田さんが戻って来た事に、ホッと胸を撫でおろしたのも束の間。
「でもさ、名前──、」
今度はこちらが握っていた手を優しく握り返され、少しだけ驚いてしまう。
「確かに俺達は出会って間もない。
でも俺は…、俺達は──」
真剣な面もちで告げられた次の言葉。
それは、自分の耳を激しく疑うもので……。
「ずっと前から名前の事を知っていた」