幻騎士が手を離した隙に雲雀さんの前に飛び出し、私は光の壁を作る“守りの歌”を発動させた。
「歌姫の力か」
それを見た幻騎士が落ち着いた口調で訊ねて来たけれど、素直に頷いている余裕は私にはない。何故なら私は、自身の後ろに立つ雲雀さんを守る事に必死だったから…。
周囲で響く爆発音が治まると同時に、私達を守っていた光の壁が、パリンと音を立てて崩壊する。
直後、身体が鉛のように重くなって、私はその場に崩れ落ちた。何、これ…?身体が言う事を聞かない。まるで自分の身体ではないみたいだ。
「…はあ…はあ…」
呼吸をするのも苦しい。
「力を使い果たしたか」
幻騎士の冷めた声が耳に届く。悔しいけれど、彼の言う通り。咄嗟の事にコントロールが出来ず、残りの力を全て使い果たしてしまったのだ。
「だがこちらとしては好都合。これで貴様を入江殿の元に連れて行く手間も省けるというものだ」
コツリ、コツリと幻騎士が近付く気配を感じる。
「そこを退け、歌姫。貴様の死だけは我が主…白蘭様が望んでいない」
彼は私を退けさせて雲雀さんに止めを刺すつもりなのだ。させない。そんな事、絶対にさせない!
(…守らな、きゃ…)
そう思うのに、足に力が入らない。立ち上がる事が――出来ないのだ。
(雲雀、さんを…守らなきゃ…いけないのに)
どんどん意識が遠退いて行く。このままじゃあ座っている事さえ…出来ない。そう思った次の瞬間、ぐっと腕を掴まれた。
「…そんな所に座り込まれたら、邪魔だよ」
そう言って無理矢理私を立ち上がらせたのは、
「…倒れるのなら、他の場所にしてくれない」
不機嫌そうに顔を顰める雲雀恭弥さんだった。
「今更歌姫を守ろうとしても無駄だ。大人しくその女をこちらに渡せ」
「…守る?違うよ。僕は僕の前に立つ邪魔な者を排除しようとしただけさ。この人が欲しいなら勝手に連れて行けばいい。僕には関係ないからね」
「…ならば何故“歌姫の手を離さない”」
幻騎士に指摘されて、ハタと気付く。確かに冷たい言葉を浴びせる割に、雲雀さんは私の腕を離そうとはしなかった。
「関係ないと言うなら、その手を離せ。そして歌姫をこちらに渡すのだ」
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