「…歌姫?何…それ?」
「分からぬのならそれで良い。どうせ貴様は此処で終わるのだからな」
カチャリ。幻騎士が鞘から剣を抜き取った。それを目にした雲雀さんも再びトンファーを構える。
「勝手に人を終わらせないでくれる。君やっぱりムカツクよ…咬み殺す」
「無駄な足掻きだ」
両者は同時に地を蹴った。そして響き渡る、金属のぶつかり合う音…。
私は咄嗟に目を背ける。また雲雀さんが弾き飛ばされると思ったからだ。
でも音は止む事なく、何度も何度も鳴り響いて。違和感を感じた私はゆっくり視線を戻し、大きく瞳を見開いた。だって雲雀さんがあの幻騎士の動きに対応していたから。
(一度手合わせしただけで、もう幻騎士の動きを見切ったと言うの!?)
そんな雲雀さんに驚いたのは私だけではない。
「流石と言っておこう」
「…何の事?」
「僅かな時間で俺の剣の速さに対応している」
凄まじいスピードで攻防を続ける幻騎士もまた然り。けれど幻騎士は一切表情を変える事なく、雲雀さんがトンファーで剣を受け止めた瞬間、
「だが所詮…小童っ」
ドガッ!もう一方の剣で彼の頭部に懇親の一撃を食らわせたのだ。その衝撃で再び瓦礫の山へと吹き飛ばされる雲雀さん。
「雲雀さあああんっ」
咄嗟に彼の元に走り寄ろうとするも、手首を掴まれ、動きを封じられる。私の手を掴んだのは、
「終わりだ、歌姫」
――幻騎士。
「奴が起き上がる事は二度とない。あの一撃には霧の炎を込めた。生身の体で防ぐ事など出来ぬ」
「そ、んな…」
「貴様を守る者は存在しないのだ。諦めて白蘭様のモノとなれ、歌姫」
今すぐ掴まれた腕を振り解いて、雲雀さんの元に駆け寄りたいのに…。身体に力が入らない。ポロポロと涙が頬を伝う。
「雲と雨のボンゴレリングの回収は後だ。今は貴様を入江殿の元へ…」
“連れて行く”彼の言葉は確かにそう続く筈だった。けれど何故か言葉を詰まらせる幻騎士。不思議に思った私も幻騎士の視線を追おうとして。
「…さっきから気に食わないな…その呼び方」
息を飲んだ。ガラガラと瓦礫の崩れる音に目をやれば、そこには血を拭い、幻騎士を睨みつける雲雀さんの姿があったから。
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