83.笑顔の花 *****
その困惑を振り払うように、幻騎士は二本の剣を雲雀へと向けた。その様子を眺めつつ、クツリと小さく笑みを零す雲雀。
(本当に羨ましいよ)
こんなに強い相手と最後まで戦える“彼”が…。
そして何より、自分よりも早く、名前と出会う事が出来る“彼”が…。
『雲雀さん!!!』
不意に名前の声が耳に届く。本当は彼女に言いたい事があった。伝えたい事があった。でもそれはこの戦いが終わり、名前に本当の笑顔が戻ってからで良いと今なら思う。
(どうやら僕は名前の笑顔が好きらしいからね)
ギラリ。二本の剣先が目前まで迫る。避ける必要は…もうなさそうだ。雲雀は静かに瞳を閉じた。
瞼に浮かぶのは名前の笑顔。どうかこの笑顔が失われる事のないように。
(任せたよ)
この戦いを。世界を。そして“名前”を――、
“君”に……託す。
◇ ◇ ◇
突如音を立て崩れ始めた球針態。辺りは一瞬で瓦礫の山と化し、私はそれを見つめ…愕然とした。
(だって、球針態が壊れたと言う事は…っっ)
雲雀さんが――!!
「雲雀さあああんっ」
私は頭に浮かんだ考えを振り払うように彼の名を叫ぶ。いやっ、嫌です!
「返事をして下さい!!雲雀さあああんっっ」
「無駄だ」
「っっ」
立ち込める砂煙の中から、私の望んだ人ではない別の人物の声が聞こえた。その人物は靴音を響かせ、私の前で停止する。
「幻……騎、士」
恐怖の為に声が震えた。私は涙を溢れさせながら、幻騎士を見上げる。
「貴様を守るナイトはもういない。諦めろ歌姫」
諦…める?一体何を?何を諦めろと言うの?
『――もし、君自身で対処できない事があったら…僕を呼べば良い。必ず君を助けてあげるから』
そうだ。雲雀さんは言ってくれたじゃない。自分で対処出来ない事があれば僕を呼べば良いと。必ず助けると。だから!
「…め、ません」
「何?」
「私、諦めません!!」
「っっ」
必死に涙を堪え、強い眼差しで幻騎士を見上げた瞬間、それまで無表情だった幻騎士がひゅっと息を飲むのが分かった。
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