でも雲雀は目の前の男…幻騎士に出会ってしまった。久々に自分をワクワクさせる、強い相手に。
(だから名前、もう暫く楽しませて貰うよ)
悪いね。雲雀は心の中で謝罪を述べながら再度幻騎士へと向き直った。
「でもそれ以上に嬉しいんだ。久しぶりにズタズタに咬み裂いた姿を見たくなる程の獲物に出会えたから。……これで“強力なリング”でもあれば文句ないんだけどね」
強力なリング。雲雀の言葉に幻騎士は身構える。何か秘策でもあるのだろうか?しかし、それならば既に見せている筈。
(――いいや。奴には何も残っていないっっ)
幻騎士は直感した。そしてマーレリングに灯る炎を更に強くし、雲雀に向けて高らかに宣言する。
「良かろう。手加減せずに葬ってやるっっ」
その言葉を合図に両者は同時に床を蹴った。互いの武器が交差し、ガキンと衝突音を響かせる。直後、雲雀のトンファーに異変が起こった。鋼鉄で出来たトンファーが僅かに削り取られたのだ。
「硬度の低い霧の炎も一点に集中すれば鋼鉄を焼き千切るなど造作もない」
「…知ってるよ」
けれど雲雀の表情は変わらない。寧ろ笑みを浮かべて嬉しそうに見えた。
「気に入らんな二度と笑えぬようにしてくれる。我が剣をとくと味わへ」
そして幻騎士の怒濤の攻撃が始まる。その攻撃を防ぐ度に雲雀のトンファーは焼き切られ、見る見る内に短くなって行く。
「そのトンファーが失われた瞬間が、貴様の命が終わる時だっっ」
「良いね」
それでもやはり雲雀の表情は変わらなかった。
「――貴様っ、死を望んでいるのか!!」
「…どうして僕が?……咬み殺される事になるのは、君なのに…」
既にトンファーは原型を止めて居らず、幻騎士が一太刀振るう毎に雲雀自身が切り刻まれていく。それなのに、何故この男は笑っているんだ!!
カキキキン。
瞬間、雲雀のトンファーが空高く舞い上がる。
武器を失い、もう戦う事が出来ない筈なのに。
「羨ましいな」
雲雀の目は光をなくしていなかった。こんな状況でも強く輝き続ける漆黒の瞳。困惑する幻騎士。
(何だ、この不敵な目は!!何だ、何なんだっ)
この男は――!!
「ええいっ、死ね!!!」
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