83.笑顔の花
眩い光が消え失せ、幻騎士が目を開けると…そこは無数の刺と青空が広がる不思議な空間だった。
目の前には自分と対峙するように佇む雲雀恭弥の姿。悟られない程度の動揺を浮かべつつ、幻騎士は静かな声で問い質す。
「貴様、何をした」
「戦う当人同士以外は全て排除される絶対遮断空間。それが裏・球針態」
直後、球針態の外壁から爆発音が響く。幻騎士が幻海牛を使って、外から攻撃をしかけたのだ。しかし、びくともしない。
「…無駄だよ。密閉度の高い雲の炎で作られたこのドームは頑丈に出来ていてね、その程度の攻撃で破る事は出来ない」
雲雀はゆっくりと歩を進め、幻騎士にも分かるように説明を続ける。
「…中からも同じでね、長時間、僕に背を向けて破壊のみに集中しなければ脱出は出来ない」
しかも球針態を作る時に、雲の炎の燃焼に多大な酸素を消費し、尚且つ球針態を維持する為にも酸素は急速に減り続けると雲雀は説明を加えた。
確かに雲雀の言う通り、先程から呼吸がし難くなっている。つまり、
「四方を囲む無数の刺と酸欠状態でのデスマッチか」
「…手っ取り早く終わらせたくてね。スケジュールが詰まってるんだ」
「嘯(うそぶ)くな。貴様の戦い方を見て気付かんとでも思うのか?」
対する幻騎士も雲雀の考えを読んでいた。
「この空間はリング不足を補う為のものだ。リングを使い果たせば匣兵器での戦いは不利になる。その前に残りのリングを全て使い、肉体での戦いに持ち込む魂胆だな」
だが目的はそれだけではない筈。恐らく名前の為。あのまま彼女の傍で戦っていれば、何時か彼女が傷つく事になる。雲雀はそれを避けたかったのだ。だから当人同士以外は排除される、この空間での戦いを選んだ。
(どちらにしても、体術に自信がなければ出来ない戦法には違いない)
――しかし、その自信が“仇”となる。幻騎士は両手の剣を握り締めた。
「良かろう。だが自信があるのが自分だけとは限らんぞ。誤解しているようだが幻海牛の幻覚は剣技を補うものではない」
そう。幻海牛の幻覚は…
「その“強すぎる剣”を“隠す為”のものだ」
その返答に「ふーん」と口元を綻ばせる雲雀。
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