82.さよならへの秒読み ***
瞳をユラリと揺らす私の様子を雲雀さんはただただ静に見つめていた。
「…別れは済んだか」
その時、突如幻騎士の声が耳に届く。雲雀さんはゆっくりと立ち上がり再び幻騎士へ向き直った。
「もはや貴様に勝ち目はない。種さえ分かれば恐くはないからな。対処すれば良いだけの話だ」
確かに彼の言う通り、リングの炎を使って見えない敵を察知すると言う雲雀さんの手の内が分かった以上、これからの戦いは幻騎士が優勢になる。
「大人しく歌姫を渡せ」
でも雲雀さんは…、
「その必要はないな」
微かな笑みを湛えたまま。そんな雲雀さんに幻騎士は訝しげな顔をする。
けれど次の瞬間、幻騎士の表情が一変。驚きのものへと変化したのだ。一体何が…?不思議に思い、幻騎士の視線を辿った私は同様に目を見開く。
(リングを3つも!?)
そう。雲雀さんは取り出したリングを、人差し指に一つ、中指に二つ。同時に装着していたのだ。
「名前を傷つけようとした罰だ。……嘗(かつ)て味わった事のない世界で……咬み殺してあげる」
瞬間、3つのリングに炎が灯り、凄まじい量の炎が指輪から放射される。
「行くよ」
そして自身の匣を取り出した雲雀さんは3つ分の炎を同時に注ぎ込んだ。入りきらなかった雲の炎が匣の横から溢れ出す。
(あんな無茶な開匣をしたら、匣兵器が…っ)
一体何をしようと言うの!幻騎士も固唾を飲んで雲雀さんの動向を窺う。
「匣を殺してしまわぬように炎を注入するのが難しくてね」
刹那、匣に亀裂が入り、パリンと砕け散る音が響いた。それと同時に雲雀さんの掌に眩い光を放った雲ハリネズミが出現する。その光はどんどん大きさを増して行き…、
「裏・球針態」
球体へと姿を代える。でも余りの眩しさに目を開けている事が出来ない。
私は両腕で必死に目元を覆った。暫くして光が治まり、うっすらと目を開けて――言葉を失う。
「な、に……これ」
雲雀さんと幻騎士の姿が消え、代わりに目の前に現れたのは、これまでとは比べ物にならない程の、巨大な球針態だった。
さよならへの秒読み
- カウントダウン -
(それ(カウントダウン)は既に始まっている)
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