彼の言葉を合図に、残った敵が一斉に私達を振り返る。やはり『眠りの歌』を発動させるしかない。そう思い、胸の前で手を組もうとした瞬間。
「…君が力を使う必要はないよ」
何故か雲雀さんに止められた。どうしてなのか問い返そうとした私だったが直ぐに口を噤む。何故なら彼のリングには既に炎が灯されていたから。
「…名前、僕の傍から離れないようにね」
「え??」
「――今、カタをつけてあげるよ…」
左手には雲ハリネズミの匣。雲雀さんは口元に笑みを浮かべたままリングを匣へと差し込み、開匣した。刹那、パリンとリングの砕ける音が響く。
直後、開匣した匣から雲ハリネズミが飛び出し、物凄い速さで巨大化して行った。瞬く間に天井まで達した球針態は、そのまま壁を突き破り…。
『うわぁああああっ』
大破した頭上の壁が、ガラガラと音を立てて崩れ始める。逃げ場を失い、次々に落ちて来る瓦礫の下敷きになって行くミルフィオーレの隊員達。
しかしこのままでは私達まで瓦礫の下敷きに!!
(何とかしないとっ)
私はグッと唇を噛み締め、そして…徐に両手を頭の上に翳(かざ)した。
瞳を閉じ、全神経を掌に集中させる。すると熱が一点に集まるのを感じ、私はパッと瞳を開けた。
瞬間、私の掌の前には丸い円形の“光の壁”が出現する。それは仄(ほの)かに白い光を放っていて、まるで神秘の産物のよう。――そう。これが歌姫の持つ二つ目の能力。
(“守りの歌”発動!)
私は再び旋律を奏でた。
守護者と歌姫
(守護者が私(歌姫)を守るなら、私(歌姫)が守護者を守ります)
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