息も絶え絶えにそう告げると、先程まで騒がしかったトレーニングルームがいつの間にか静かになっている事に気付く。
その直後「名前さん!!」と言う叫び声が響いて、同時に私にも負けない位、顔を真っ青にした沢田さんがこちらに走り寄って来る姿を発見した。
「もう出歩いても平気……な訳ないよね?!部屋で寝てなきゃ駄目だよっ」
「すみません。でも貴方ならお分かりですよね?私が…此処に来た訳を」
心配そうに覗き込まれた蜂蜜色の瞳を、私も真っ直ぐに見つめ返す。全てを悟り、言葉に詰まった沢田さんは大きく深呼吸をして、それから…。
「ごめん」
深々と頭を下げる。
「色々考えてみたけど、やっぱり駄目だ。貴女は……連れて行けない」
彼の答えに不思議とショックを感じなかった。寧ろ納得する気持ちの方が勝っているのは何故?
「本当に、ごめん」
それにどうして沢田さんの方が泣きそうな顔をしているのだろう。そんな顔しなくても良いのに。
「誤らないで下さい。私、凄く嬉しいですから」
膝の上で強く握り締められた沢田さんの右手。その手に自分の両手を添えた瞬間、沢田さんの肩がビクリと揺れた。
「本来なら戦う事の出来ない非戦闘員なんて連れて行こうとも思わない筈です。それなのに沢田さんは真剣に考えて下さった。その気持ちだけで私は嬉しいです。本当にありがとうございます」
ニコリと笑みを向ければ、沢田さんの頬は見る見る赤く染まって行く。
お礼を言われて照れているのだろうか?中学生の沢田さんは可愛らしいな…何て和んでいると。
「……眠くなって来た…。…そろそろ帰る」
頭上から低いテノールが降り注ぐ。同時に視界が反転。自分が“抱き上げられた”と気付くまでに暫しの時間を有した。
「ちょ、雲雀さん!!!」
背後で沢田さんの呼び止める声。しかし私を抱き上げた張本人・雲雀恭弥さんは知らん顔だ。ふあ…と欠伸を噛み殺す。
眠いから帰ると言うのは実に彼らしい理由だが、どうして私まで?もしかして体調を気遣ってくれているのだろうか?
「ねえ」
その時、雲雀さんが私の耳に唇を寄せた。同時に彼の息が耳に掛かって肩がピクリと揺れる。そんな私の様子を実に愉快そうに眺めながら、彼は驚く事を口にしたのだ。
「…彼らの目的とは違うけど、戦いに参加する方法なら他にもあるよ」
「ぇ」
「…興味…ある?」
そう言って私を見下ろす雲雀さんの表情は、女性でも羨む程美しく…妖艶な色香を漂わせていた。
二つの決断
(こうして私達は5日後の作戦に向け始動した)
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