――集中医療室。全身傷だらけでベッドに横たわるクローム髑髏さんを、私は苦痛の表情を浮かべながら見つめていた。
確かに怪我も酷いが、それより彼女の状態を悪くしているのは寧ろ栄養失調の方だ。恐らく何日も食べていないのだろう。
私は彼女の髪にそっと手を伸ばす。綺麗な藍色がさらりと滑り落ちた。
「…訳も分からないまま、この時代(未来)に飛ばされたのでしょうね」
彼女の心情を考えると更に胸が苦しくなった。きっと心細かったに違いない。私は膝の上に置いた両手をキュッと握り締める。
(こんなに幼い貴女でも戦っているのに、私は何をしているのでしょう)
頭に浮かぶのは此処へ来る前、帰還した笹川さんから聞かされた話…。
“5日後――5日後にミルフィオーレ日本支部の使用施設を破壊する”
余りに突然な事で、その話を聞かされた皆は激しく動揺していた。それは私も然(しか)りだ。
けれど、この機会を逃すと次に何時ミルフィオーレに対し、有効な手立てが打てるか分からないと言う笹川さんの言葉に黙り込むしかなかった。
しかし、その作戦への参加は「強制ではない」と、笹川さんは言う。
『確かにこの作戦はボンゴレの存亡を賭けた重要な戦いだ。――だが、結構するかどうかは……沢田、お前が決めろ』
現在ボンゴレの上層部は混乱していて、10年前の沢田さん達の事も信用しきった訳ではないらしい。ヴァリアーも飽くまでボンゴレ9代目の部隊と言う姿勢だそうだ。
だから沢田さんの一存で作戦全てが中止になる事はない。でもこのアジトの主は間違いなくボンゴレ10代目だ。他の皆も修行の真っ最中。正直、たった5日ではこちらが納得出来る戦力は…揃えられないと思う。
(それに…私は?私は戦力として皆さんに扱って貰えるのでしょうか)
否、貰える訳がない。戦う事が出来ない私は、どう頑張っても足手纏いにしかならないのだから。
シュー…。
その時、背後でドアの開く気配を感じて私はハッと振り返る。するとそこには苦笑を浮かべた笹川さんが立って居た。
「もしかしたらと思って来たのだが…やはり浮かない顔をしていたな」
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