「クフフ。そうです。貴方の雨フクロウに少し細工をさせて頂きました」
「匣に憑依するなど聞いた事がないぞ!!!」
「クフフフ。出来てしまった事は仕方ありませんね。…それとも夢…と言う事にしましょうか」
「おのれーーっっ」
グロ・キシニアの怒りが頂点に達した――次の瞬間だった。彼はその怒りを瞬時に静め、まるで骸をあざ笑うかのように口元を吊り上げたのだ。
「それ程あの娘が大事か?クローム…いや、ボンゴレの歌姫・名字名前」
骸は身体を硬直させる。
「大地の匣を体内に有する以外、何の価値もない娘だと思っていたが…貴様がそこまで愛しみ・執着しているのなら話は別だ。クローム髑髏を食し、絶頂を味わった後に、貴様の目の前で歌姫も我がモノにするとしよう」
一瞬にして冷静さを取り戻すグロ・キシニア。流石ミルフィオーレ六弔花の一人。……しかし、この世で最も愛しい存在の名を出されて、骸も黙っている訳にはいかない。
「君のような不逞の輩に、名前を汚させる訳には行きません。残念ですが、君には此処で……眠って頂きましょうか」
「ヒッ!匣兵器に憑依した貴様如きに、この私が倒されるものかっっ」
「クフフフ。……さて、それはどうでしょう」
骸は心の中でクロームに語り掛ける。
(良いですか、クローム。僕は訳あって大きな力を使えません。お前をグロ・キシニアから逃がす事は…出来そうにない。だからお前が……この男を……“倒す”のです)
その言葉を聞いたクロームは「…は、い…」と小さく頷く。けれどその瞳には戸惑いの色が見えた。グロ・キシニアを畏怖しているのだ。骸はそんなクロームを安心させるように更に話を続けた。
(大丈夫です。お前にはボンゴレリングがある)
「ボンゴレ…リング?」
クロームは自分の指を見る。すると次の瞬間、何故か右手中指のリングに張り巡らされていた氷が、シュー…と音を立てつつ溶け始めたのだ。
(その霧のリングがお前に力を貸してくれる)
完全に氷が溶け、キラリと光る霧のボンゴレリング。クロームはそのリングを見つめながら、ぎゅっと三叉槍を握り締めた。――こうして名前の知らぬ所で、新たな闘いが幕を開けたのだった。
霧の真実
(我々はこのフクロウに骸を文字ってコードネームを付けました。それが…“ムクロウ”です)
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