『ねえ隼人。修行初日に私が言った事覚えてる』
「それがどうした!!!」
『10年後の隼人が考案した“SISTEMA C.A.I(スィステーマ シーエーアイ)”の完成。それが貴方の修行の目的。――でも今のままじゃ無理よ』
この三日間、獄寺の修行の成果はそれは酷いものだった。彼が自分を恨んでいるのは知っていたし、自分が彼の家庭教師を務める事を良く思っていないのも知っていた。
それは――獄寺と違って、ビアンキは二人の父親と“正妻”との間に生まれた娘だったから…。
そんな因果もあり、獄寺がビアンキ相手ではやる気を見せないのも仕方のない事だと諦めていた。けれど此処数日の彼の様子を見て、それだけではないと気付き始める。
『ねえ、隼人。貴方が修行に専念出来ないのは本当に私だけの所為?』
「どう言う意味だよ」
『何か他に理由があるんじゃないかと言う事よ』
彼女の核心を突いた台詞に身体が揺れた。それと同時に綱吉の言葉が蘇る。
「せめてオレが過去に帰るまでの間だけは、名前さんを好きでいさせて欲しいんだ!」
あの日以来、獄寺は名前を避けるようになった。その事にビアンキは薄々気付いていたのだ。
『貴方が名前を避けているのは知っていたわ。でもどうして避ける必要があるの?例えツナが彼女に想いを寄せていたとしても、隼人が気にする必要はない筈よ。――“貴方自身”が名前を気にしていない限りはね…』
獄寺はヒュッと息を飲む。違うと叫びたかった。けれど本当は気付いていのだ。自分は…ただ逃げていただけなのだと…。名前は綱吉が想いを寄せる相手。だから距離を取ろうと思った。それは一体何の為に?綱吉の為?否違う…自分の為だ。
『敬愛するボスが想いを寄せる相手だからと言って貴方が身を退く事はないわ。本当に欲しいと思うのなら…例えツナを敵に回してでも“あの子”を奪い取りなさい』
「…な、何言って!!ンな事出来る訳…っっ」
『いいえ。出来るわ。どうしても決断出来ないと言うなら…教えてあげる。この時代の隼人が考案したSISTEMAC.A.Iは元々、名前を守る為に貴方が考案したモノなの。…これが何を意味するか、もう分かるでしょう』
ビアンキは強い口調でそう言い切ると壁から身体を離し、部屋の前から立ち去って行った。
彼女の気配が遠ざかるのを感じながら、獄寺はギチリと両手を握り締める。爪が掌に食い込み、微かに血が滲んでいたけれど、今の獄寺にはそれを気にする余裕など、何処にもありはしなかった。
揺れる 想い
(アネキの言う事が本当なら、10年後のオレに取って名前は……すげー特別な女だったんだ)
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