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66.勝利の女神 ****


「(これだよ沢田綱吉。…やはり君は面白い)」



雲雀さんは匣を素早く開匣し、迫って来たハリネズミに向けて解き放った。彼が開匣したのも、同じハリネズミタイプの匣。雲雀さんは同じ匣を二つ持っていたのだ。


ドォォォン


沢田さんのハリネズミと、雲雀さんの雲ハリネズミ。両者の匣が激しくぶつかり合う。その様子を眺めながら雲雀さんは愉快そうに目元を細めた。



「気が変わったよ」

「?」

「…もっと強い君と闘いたいな…。…それまでもう少し付き合おう」



雲雀さんの纏っていた殺気が少しずつ薄らいで行く。その事に安堵し、私は小さく息を吐いた。

修行とは言え仲間同士が闘う姿は、見ていて余り気持ちの良いものではない。どちらにも勝手欲しいと思うし、怪我をして欲しくないと思うから…。それなのに暫くはこんな思いが続くのかと思うと…少し憂鬱になる。



「…でも沢田綱吉。覚えておくと良い。大空の炎は全ての属性の匣を開けられる事が出来るが、他の属性の匣の力を全て引き出す事は出来ない」



そう言って雲雀さんが上を見上げた瞬間。上空で動物の鳴き声が響く。
見ると、沢田さんのハリネズミが雲雀さんの雲ハリネズミに取り込まれようとしていたのだ。

そうか。雲属性の増殖!それに気付いた時には沢田さんのハリネズミは完全に取り込まれ、細かい粒子になって消えてしまった。橙色の光がまるで雪のように降り注ぐ。



「…悲観する事はないよ。“大空専用”の匣も存在するらしい。……でも、今回は君の負けだ」



そう言って雲ハリネズミの戻った匣を懐に仕舞い込み、雲雀さんは私の元へと歩み寄って来る。



「勝利の女神は僕に微笑んだらしいね。彼女は貰って行くよ。赤ん坊」

「嗚呼。好きにしろ」

「へ?あ、あの…っ」

「おいで…名前」



雲雀さんは私の手を取ると後ろに控えて居た草壁さんを呼び、エレベーターに向かって歩き始めた。傷だらけの沢田さんの事が気掛かりだった為、戸惑いがちに後ろのリボーンさんを振り返ると丸い漆黒の瞳と目が合う。



「ツナの事は気にすんな。……それより後で迎えをやるからボンゴレのアジトに戻って来いよ」

「は、はいっ」



私が大きく頷いている間も、雲雀さんはグイグイと腕を引っ張って行く。

途中でリボーンさんを迎えに来た山本さんとすれ違い、挨拶を交わそうとしたのだけど、雲雀さんはそれさえも許してくれず、私はエレベーターに押し込まれてしまった。

雲雀さん、何だか機嫌が悪い。沢田さんと闘っている間はあんなに機嫌が良かったのに一体どうしたんだろう。



勝利の女神


(雲雀の奴、顔には出さなかったが相当苛ついてやがったな…。そんなに“ツナが名前を『好きだ』”と言った事が気に食わなかったのか)


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