だが微かに壁の装甲が溶かされた部分がある。恐らく、コイツの弱点はより純度の高い炎。
でもどうすれば、この球体を打ち破るだけの巨大な高純度の炎を…。
『沢田さん』
不意に外から名前さんの声が聞こえた。彼女に心配を掛けているんだ。こんな所で死ぬ訳には…。どうすれば良い。まだ覚悟が足りないのか。
瞬間、額の炎がシュウと消えて行く。同時にオレはその場に倒れ込んだ。体力の限界だった。オレは手袋を外し、ボンゴレリングを見つめる。
(…これ以上何が望みなんだ。――“何が”…)
次第に意識が遠退く。もう駄目だ…と諦め掛けた――次の瞬間だった。
突然ボンゴレリングが輝き、白い光を放つ。
刹那、頭の中に流れ込んで来た映像。赤く燃え上がる建物。響き渡る銃声。そして夥(おびただ)しい数の…人間の亡骸。
(……何だ…これは…)
目を塞ぎたくなるような無惨な映像。光景。
『報復せよ!!』
『根絶やせっっ』
(…何、だ、何なんだ……これは……っっ)
『ボンゴレの……業』
何処からともなく、男の声が響く。
気が付くと、オレは数人の人影に囲まれていた。
『抹殺・復讐・裏切り・飽くなき権力の追求。マフィアボンゴレの歴史』
『大空のボンゴレリングを持つものよ。貴様に覚悟はあろうな……この業を引き継ぐ覚悟が』
再び頭の中に流れ込む映像。人々の叫び。悲鳴。そして――血塗れの…
「や…止めろおおおお」
目を閉じても、耳を塞いでも残酷な映像はオレの頭から離れない。嫌だ、観たくない。観たくないっっ…涙が溢れる。
『…め…、なさ…』
不意に聞こえた女性の声。地獄絵図と化した映像の中にその人は佇んでいた。オレは涙を流しながらその人を見つめる。
…誰だろう。…誰かに似てる。…誰に?…あの人に。――名前さんに。
『歌姫だ!殺せ殺せ!』
『奪え!奪い取れ!!』
憎悪・欲念・殺意…。負の感情を抱いた人々が彼女の周りを取り囲む。そして、そんな彼女を守る為に繰り返される殺戮。
『これがボンゴレの背負いし業…。歌姫を守る為、繰り返された歴史』
『目を離すな』
『真実を受け入れろ』
『覚悟はあろうな』
『この業を引き継ぐ覚悟が。歌姫を守る覚悟が』
映像の中で、女性が涙を流す。守る?これの何処が“守る”と言うんだ?
[←][→]