「何でコイツを狙ってるか知らねーが、そう簡単に渡すかよっっ」
「だな!」
「ほう。俺とやろうってのか?…良い度胸だ」
電光のγはニヤリと愉快そうに笑みを浮かべると、右手の中指に填(は)めたリングに炎を灯す。
「こいつはな、お前らが破棄した“ボンゴレリング”と同等の力を持つ“マーレリング”だ」
バチバチと鋭い炎が私達の目に飛び込んで来る。『電光のγ』の名に相応しい…緑の雷の炎だ。γは懐(ふところ)から同色の匣を取り出し、炎を注入。瞬間、匣から飛び出したのは雷の炎を纏ったビリヤードの玉だった。
相手の力量なんて良く分からない私でも、この人の強さは理解できる。全身から溢れ出す、凄まじい殺気…。――このままでは、この場に居る全員が殺されてしまう!!
「お前達には特別に天国の扉を見せてやるよ」
いや。そうならない方法が一つだけ存在する。
「待って下さい」
私は目の前に立つ二人を遮り、敵に向かって歩き始めた。そんな私を驚いたように見つめる獄寺さんと山本さん…。
「お、おいっ」
「何する気っスか!?」
γさんの前で足を止め、真っ直ぐに彼を見上げる私。そんな私を物珍しそうに見つめるγさん。
「これはまた随分と勇ましいお姫様だな。自らの足で敵の懐(ふところ)に飛び込んで来るとは…」
「…貴方の目的は私を捕らえる事何ですよね」
その問い掛けにγさんはふっと微笑み、マーレリングを填めた右手で私の頬をそっと撫でた。
「嗚呼、そうだが」
「………」
私はその手を振り払う事なく、じっと耐える。
私の知っている『この時代の彼ら』なら兎も角、過去からやって来たばかりの10年前の獄寺さん達では、この人と戦っても勝てる可能性はゼロに等しい。ならば、戦わずしてこの場を回避しなければならない。しかし、それをこの男性がを許してくれるだろうか?
答えは――否だ。だから私は考えたの。二人を傷つけさせる事なく穏便に済ませる方法を…。
「でしたら…彼らには手を出さないで下さい」
私はγさんを見つめたまま、未だに自分の頬を撫でる大きな右手に自分の手を添えた。瞬間、大きく見開かれる彼の瞳。
「もし、その願いを聞いて頂けるのなら――」
私が彼らに同行した理由も全て…この瞬間の為。
「私は貴方に従います」
自分を盾に彼らを守る事が目的だったのだから。
歌姫の覚悟
(此処で貴方達を失う訳にはいかないの。だって貴方達はこの未来を変える為にやって来た『一筋の希望』なのだから)
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