それでは全然分からない。もっと詳しく教えて下さい!――そう詰め寄ろうとした私を、骸さんは最後に強く抱き締めた。
「君が傍に居ない事がこんなにも辛い事だ何て思いもしませんでしたよ」
クフフ…と、笑い混じりに囁かれた一言。けれど、言葉とは裏腹に私を抱き締める腕は痛い位に強くて…。私はそれ以上何も言えずに、黙って骸さんの胸に顔を埋めた。
「……名前、また会いましょう…。今度は現実の世界で――必ず…」
次第に骸さんの声が遠くなる。――嗚呼、もう直ぐ目覚めてしまうんだと、瞳を閉じた瞬間、不意に身体を離された。
そして、夢から覚める直前。私は額に触れるか触れないかの、柔らかな感触を感じたのだった。
◇ ◇ ◇
「――っ…」
ハッと目を開ける。ガバリと起き上がり、辺りを見回すが、当然そこに骸さんの姿はない。
(感触が…残ってる)
私はそっと自分の額に手を添えた。最後に触れたあの感触…。あれは多分、骸さんの唇。瞬間、かあっと頬が紅潮する。
確かに夢の中だから恥ずかしくないと言った。
でもだからって額にキスをしなくても…。スリスリと額をさすりながら唇を尖らせる。
「……名前、また会いましょう…。今度は現実の世界で――必ず…」
骸さんの身に何があったのか私には分からない。でも、現実で会おうと言ってくれたあの方の言葉を信じたかった。
私は胸に手を宛て、心の中でそっと語り掛ける。
(絶対ですよ、骸さん。絶対、現実の世界でお会いしましょうね…)
当然返事など返って来る筈がない。だけど、それでいいのだ。それで…。
『――君の声は、良く響くんです…』
それが貴方の口癖だから。そうですよね、骸さん…。私はふっと笑みを浮かべた。――その刹那。
ヴー、ヴー、ヴー…
突如アジト内に大きな警報音が鳴り響いたのだ。
「――な、何!?」
「名前起きているかっ」
直後、扉の向こうからラル・ミルチさんの声が聞こえた。私は「はい!」と返事を返して、慌ててドアへと駆け寄る。
「どうしたんですか!」
この時、私にはまだ分からなかったのだ。新たな戦いが、直ぐそこまで迫っていた事を……。
霧の優しさ
(骸さん。私、頑張りますね…)
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