「おい、大丈夫か!」
「…ハ、ァ…ハァ…」
息を乱し、顔を歪める名字…。くそ、一体どう成ってやがるんだ!!
「へえー、これが噂に聞く“歌姫の力”か」
「歌姫の力…だと?」
“歌姫”――確か10年後の山本もそんな事を言ってやがった。じゃあやはり、この女が歌姫…。
だが歌姫ってのは何なんだ?それに力ってのも気になる。アイツの攻撃を粉砕した『さっきアレ』がそうだっていうのか?
「まあ、何でも良いや!兄貴から歌姫の能力は厄介だって聞いてけど、その様子じゃあ1回使うのが限界みてーだしな」
未だ肩で息を繰り返す名字を、奴は嘲笑(あざわら)うように見つめて来る。胸くそ悪ぃー…。
「とっとと他の奴を片付けて、その女を連れて帰るとするか!!」
「…ヤロー!!!」
オレは瞬時にダイナマイトを構えた。…だが、
「何だコイツ。ダイナマイトかよ?そんなモンでオイラに勝てるか!」
確かに奴の言う通りだ。ダイナマイトで歯が立つ相手じゃねー。オレは左指に填(は)めたボンゴレリングを見つめた。
『炎をイメージしろ』
瞬間、山本の言葉が脳裏を過ぎる。
『死ぬ気を炎にするイメージ…。覚悟を炎に変えるイメージだ』
……山本、おめーに言われたかねーんだよ。オレは何時だって――っ
「ギンギンに覚悟は出来てんだっっ!!!!」
オレはぎゅっと拳を握り締めた。後は炎だ!覚悟を炎に…。炎に――っ
「さあ、終わりだ!!」
敵が武器を振り上げた、その瞬間――。
ボウ!
ボンゴレリングに真っ赤な死ぬ気の炎が灯る。
「……あ?あの炎。オイラと同じ“嵐の炎”」
一部始終を見ていた敵の動きがピタリと止まった。嵐の炎?何だか良く分かんねーが、これでこの匣ってのが開けられる筈だ!何が入ってんだ?大した武器なんだろうな。
オレは匣を持ち、今だ地面に蹲(うずくま)る名字を見つめる。それに気付いた名字が不意に顔を上げた。唇が「……獄、寺…さん」と小さく動く。
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