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56.戸惑う 心 **


「おい、大丈夫か!」

「…ハ、ァ…ハァ…」



息を乱し、顔を歪める名字…。くそ、一体どう成ってやがるんだ!!



「へえー、これが噂に聞く“歌姫の力”か」

「歌姫の力…だと?」



“歌姫”――確か10年後の山本もそんな事を言ってやがった。じゃあやはり、この女が歌姫…。

だが歌姫ってのは何なんだ?それに力ってのも気になる。アイツの攻撃を粉砕した『さっきアレ』がそうだっていうのか?



「まあ、何でも良いや!兄貴から歌姫の能力は厄介だって聞いてけど、その様子じゃあ1回使うのが限界みてーだしな」



未だ肩で息を繰り返す名字を、奴は嘲笑(あざわら)うように見つめて来る。胸くそ悪ぃー…。



「とっとと他の奴を片付けて、その女を連れて帰るとするか!!」

「…ヤロー!!!」



オレは瞬時にダイナマイトを構えた。…だが、



「何だコイツ。ダイナマイトかよ?そんなモンでオイラに勝てるか!」


確かに奴の言う通りだ。ダイナマイトで歯が立つ相手じゃねー。オレは左指に填(は)めたボンゴレリングを見つめた。



『炎をイメージしろ』




瞬間、山本の言葉が脳裏を過ぎる。



『死ぬ気を炎にするイメージ…。覚悟を炎に変えるイメージだ』




……山本、おめーに言われたかねーんだよ。オレは何時だって――っ



「ギンギンに覚悟は出来てんだっっ!!!!」



オレはぎゅっと拳を握り締めた。後は炎だ!覚悟を炎に…。炎に――っ



「さあ、終わりだ!!」



敵が武器を振り上げた、その瞬間――。


ボウ!


ボンゴレリングに真っ赤な死ぬ気の炎が灯る。



「……あ?あの炎。オイラと同じ“嵐の炎”」



一部始終を見ていた敵の動きがピタリと止まった。嵐の炎?何だか良く分かんねーが、これでこの匣ってのが開けられる筈だ!何が入ってんだ?大した武器なんだろうな。

オレは匣を持ち、今だ地面に蹲(うずくま)る名字を見つめる。それに気付いた名字が不意に顔を上げた。唇が「……獄、寺…さん」と小さく動く。


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あきゅろす。
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