名前に6人の婚約者候補が誕生して数日が経った。彼女達の関係にも何かしらの変化があるかと思われたが、特に変わった様子もなく、何時も通りの日々が続いていた。その状況に、一人ほくそ笑んでいるのが、この男。
「本気なのか、ツナ」
ボンゴレ10代目、沢田綱吉だ。上機嫌で書類の山を片付けて行く元教え子の姿に、ボンゴレ最強のヒットマン・リボーンは少々げんなり気味…。
そんな彼を全く気にする事なく、女性なら誰もが見惚れるにっこりスマイルで綱吉は答える。
「当然。俺も歌姫の婚約者に立候補するから♪」
「『するから♪』じゃねー。歌姫は守護者と婚姻を結ぶ。それが掟だって何度言えば分かるんだ」
「そっちこそ何度言えば分かるんだよ、分からず屋。その掟は俺が変えるって言ってるだろ」
「「………」」
両者一歩も譲らず。重い沈黙が流れる。しかし何かを思い付いた綱吉が突然「あ」と声をあげた。リボーンの眉がピクリと動く。嫌な予感がする。
そんなリボーンの気持ちを読み取り、再び笑みを浮かべた綱吉は……、
「言って置くけど、俺……名前以外の人と“跡取り”作る気ないから」
爆弾を投下した。
「リボーンは早く俺に結婚して、跡取りを作って欲しいんだろ?良いよ。結婚する“だけ”なら誰とでも…。その代わり跡取りは期待出来ないな〜。……あれ?じゃあボンゴレはどうなるんだろうな?ボンゴレを存続させたいのなら反対しない方が良いと思うけどね」
痛い所突きやがって…。リボーンは悔しそうに舌打ちを打つ。そんな元家庭教師を見ながら綱吉はふっと口元を緩めた。
「本当に結婚するだけなら誰でも構わないんだ。ボスになるって決めた時から愛のある結婚は出来ないと思ってたから…」
愛のある結婚を望んではいけない。ボンゴレの頂点に立つ者として、それに相応しい相手を選ぶ。それが当たり前の事だと……そう思って来た。
けれど、そんな閉ざされた綱吉の未来に、名前は突然現れたのだ。
「俺、本気で名前の事が好きだよ。――でも、そう想っているのはきっと俺だけじゃない…」
綱吉は寂し気に微笑む。
[←][→]