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06.跳ね馬 来る ***

≪side ディーノ≫
ボンゴレの屋敷を訪れ、ツナ達と廊下を歩いていた時、窓の向こうに人影が見えた。
この屋敷では見かけた事のないその顔に、一つの可能性が浮かぶ。
ふと隣に目をやれば、ツナもそれに気付いたようで僅かに顔をしかめていた。
その様子を見れば分かる。
間違いない、彼女が名字名前だ。

「あいつ!また一人で…っ」
「悪ぃ、ツナ。ちょっと行って来る」

背後から焦る獄寺と山本の声が聞こえた。
二人は彼女を追いかけようと踵(きびす)を返すが、

「待て。俺が行く。──良いよな、ツナ?」

それを引き止め、ツナの了解を得ると、俺が彼女の後を追いかけた。
中庭に差し掛かった時、急に足元が覚束(おぼつか)なくなり、俺は盛大に倒れ込む。
なぜか一人で行動しているとまれに起こる、不思議現象だ。
物音に気付いた彼女が慌てた様子で駆け寄って来た。

「だ、大丈夫ですか!?」

転んだ俺を笑うでも馬鹿にするでもなく、本気で気にかけている様子に好感を抱く。
おまけに俺を迷子か何かと誤解したらしく、自ら案内を買って出る始末だ。
俺が侵入者だったらどうするつもりなのか少々心配になったが、こういう奴は嫌いじゃない。

(騙すようで心苦しいが、もう少し彼女と話をしてみたい)

俺は名前の好意を受け取る事にした。


 ◇ ◇ ◇

ほんの僅かな時間話してみて分かったのは、彼女には裏表がないという事だ。
キャバッローネのボス──、つまりは俺の事なんだが…。
その話題を持ち出して来た時には、こちらを持ち上げるための単なるお世辞なのかと思った。
だが名前の瞳は澄んだ色をしていて、その言葉に偽りはないと直感する。
長年ボスという立場に身を置いているだけに、この手のおべっかには慣れている筈だったが、

(下心がねーから、マジで照れるな)

途端に羞恥が込み上げ、俺は緩む口元を咄嗟に利き手で覆い隠した。
不思議そうに見上げて来る名前の姿に、どうしたものかと考える。
今更ながらに、自分がそのボスだとは言い辛い。
すっかりタイミングを逃した俺に助け船を出したのは、俺の右腕であるロマーリオだった。
それまで隠れて俺達の後を着いて来ていた部下が、何故急に姿を見せる事にしたのか問いただすと、

「自分のボスをああまで褒められて黙ったままで居られるかよ」

そう言われては、怒るに怒れねー。
自業自得とはいえ、何とも不本意な形で自分の正体を明かす事になってしまった。
名前に至っては、すっかり恐縮してしまい、俯いたまま一言も喋らなくなる始末。
いや、わずかに頬を染めているから恐れというよりは、羞恥の方が勝っているだけかも知れない。

俺にとって今回の訪問は、名前との対面が一番の目的で。
ツナ達同様、存在自体は以前か知っていたし、いつか会えるその時を楽しみにもしていた。
そして実際に対面し、本物の名前に触れ、好感が持てるヤツだと分かり、喜ばない筈がない。

ツナのヤツはまだ確信が掴めないと言っていたが、その事を抜きにしても俺は名前が気に入ったし、
それはツナ達も同じだと言うことは、先刻の奴らの様子を見れば一目瞭然だった。

(それなら今はオレのやりたいようにするだけだ)

いまだ俯いたままの名前と、俺は改めて向き合う。
こちらの気配に気付いた名前がゆっくりと顔を上げた。

「黙っていて悪かったな。改めて──」

ゆらゆらと不安げに揺れる瞳を見つめながら、俺は名前の手を取り、

「キャバッローネファミリーの10代目ボス、跳ね馬のディーノだ」

その甲に静かに口付けた。


跳ね馬 来る

(お前の事をもっと知りたい)


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