[携帯モード] [URL送信]
06.跳ね馬 来る **


正午前。出迎えのため玄関先に整列した沢田さん達を遠目に、私は離れた場所からその時を待った。
暫くしてボンゴレのお屋敷前に黒塗りの車が数台到着する。 
先頭車両の扉が開き、誰かが降りて来た瞬間、一緒に見物していたメイドさん達から黄色い声が上がった。
ここからでは顔は良く見えないが、どうやらキャバッローネのボスの姿をその目に捕らえたらしい。
おそらく今沢田さんとお話をされている男性がそうなのだろう。
二人は親しげに談笑しながら屋敷の中に消えて行き、その後をボンゴレとキャバッローネの関係者が続く。
ザワザワと騒がしかった玄関先が一瞬で静まり返る。
誰もいなくなった事を確認すると、目的を果たしたメイドさん達は満足げに仕事に戻って行った。

残された私はこれからどうすべきか思案する。
キャバッローネとの会合には当然ながらボンゴレの守護者も全員参加。
普段私の護衛について下さり、行動を共にする事も多い獄寺さんと山本さんも今日だけは別行動だ。
お屋敷の中といえど、あまり一人での行動を許されていない私はやれる事が限られていて。
片付けのお手伝いまでにはまだまだ時間はあるし、さて、どうしたものか。

(そうだ。少しだけお庭の様子を見に行こうかな)


 ◇ ◇ ◇

長い間手付かずのままだった庭の一角も、今では見違えるほど綺麗になったと評判は上場。
花を植え替えたり、草をむしったりと難しい作業は行っていないが、喜んで貰えて本当に良かった。
私自身もすっかりお気に入りの場所となり、時間があればこうして足を運ぶのが今の日課となっている。

目当ての場所に向かう道中、突然背後からベシャリと奇妙な物音が響く。
まるで蛙が潰れたかのようなその音に慌てて後ろを振り返ると、そこには大の字に倒れる男性の姿が。

「だ、大丈夫ですか!?」

私は慌てて駆け寄った。

「いっつつ…、──ああ、何とか、な」

ゆっくりと起き上がり、男性が顔を上げた瞬間、私はヒュッと息を呑んだ。
何故なら目の前の男性が、それはそれは整った顔立ちをされていたから。
太陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪。
少し長めの前髪から時折覗く鳶色の瞳。
髪型は丁寧にセットされ、沢田さん達とはまた違う大人の男性の色香が漂っていた。

「どうかしたか?」

言葉も忘れて、ただただ見惚れるばかりの私に男性から声を掛けられる。
よく見ると、彼の頬や鼻の頭は土埃で黒く汚れていて。
私はハッと我に帰り、ポケットからハンカチを取り出すと男性に差し出した。

「あの、宜しければ、これを」
「ん?──ああ、悪い」

男性は瞬時に私の意図を読み取ると、ばつが悪そうにハンカチを受け取る。
優しく顔を拭う男性の姿をこっそりと盗み見た。
屋敷では見かけない顔だった。

「もしかしてキャバッローネファミリーの関係者の方、ですか?」
「ん?あ、ああ…まあ、そんなとこだ」

歯切れの悪さが少し気になったが、広いお屋敷ではあるし、迷われたという可能性もある。

「あの、もしお困りのようでしたら、ご案内しましょうか?」

余計なお世話かもと思ったが、もし本当に困っているのなら何か力になりたかった。
控え目に尋ねた私に、男性は爽やかな笑顔を見せる。

「そいつは助かる。宜しく頼むぜ」


 ◇ ◇ ◇

準備のため屋敷内を駆け回っていたおかげで、会合の行われる場所は把握していた。
お節介ながら手伝いを買って出て本当に良かったと思う。
そうでなければ会場がどこなのかさえ分からなかったのだから。
安堵の息を吐きながら、もう一度隣を歩く男性を盗み見る。

近くで見ると更に際立って見える整った顔立ち。
同盟ファミリーと言う事はこの人もマフィア関係者と言う事になる。
でも全然そんな風には見えない。
寧ろモデルさんと言われた方がしっくり来る感じだ。

「何だよ、人の顔をジロジロ見て」

笑みを浮かべた男性に優しく咎められて私は慌てて首を横に振った。
どうやら自分でも気付かない内に凝視し過ぎていたようだ。

「そ、そういえばキャバッローネのトップの方は凄く素敵な方なんですね」

何か別の話題をと、私は咄嗟に話を逸らす。
頭に浮かんだのは朝からメイドさん達の間で持ち切りだったキャバッローネファミリーのボスの事だ。

「私はお会いした事はないですけど、メイドさん達が朝から大騒ぎで!」
「そ、そうなのか?そいつは…初耳、だな」
「到着された時も少し離れた場所でしたけど、一目見ようと皆さん集まっていらっしゃって…。
 それに、あれだけ沢山の部下の方も一緒にいらっしゃるなんて、きっと人望もある方なのでしょうね」
「そ、そう、だな…」

興奮気味に話し続ける私の横では、男性の口数が見る見る少なくなって行く。
不思議に思って隣を仰ぎ見れば、恥ずかしそうに片手で口元を覆い隠す男性の姿が目に入った。
自分のファミリーのボスを褒められて照れているのだろうかと、そう思った矢先、

「確かに人望はあるんだがなあ──」

突然聞こえたその声に私は背後を振り返る。
振り向いた先には口髭を生やし、眼鏡を掛けた見知らぬ男性が立っていて。

「まだまだ目を離すと危なっかしくてな」
 
驚く私をよそに、その男性は真っ直ぐこちらを見据えたまま、確かにこう告げたのだ。

「──なあ、”ボス“」


[←][→]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!