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01.舞い降りた 歌姫 ***

薄暗い路地裏を通り抜ける。
不安と混乱で私は咄嗟に首から下げたペンダントを握り締めた。
自分でも何故こんな事をしているのか解らない。
解らないけれど、何故だろう。
この先に私を呼ぶ“誰か”が居ると、そう思ってしまう。

暫く歩き続けると、ふっと視界が開けた。
眩しさに一瞬目を細めた私の視界にある光景が飛び込んで来る。
それは黒尽くめの男達が一人の男性を取り囲んでいる何ともいびつな光景。

「……っ…」

瞬時に危険だと判断する。
何故なら男達の手には黒い塊のようなもの拳が握られていたから。

(あれは──拳銃…っ)

私は震えながらも咄嗟に後ずさった。
けれど、それがいけなかった。

コツッ

物音に気付いた一人の男がこちらを振り返る。
あまりの恐怖に逃げ出す事も出来なくなった私。

「…女か」

チャキッ
聞き慣れない音と同時にこちらに向けられた男の拳銃。
撃たれる!私は咄嗟に瞳を閉じた。
けれど私が感じたのは焼けるような痛みではなく、誰かに包み込まれたような温かい感覚。
恐る恐る瞳を開けると、目に入ったのは風になびく“ススキ色の髪”。
先程、男達に囲まれていた若い男性が何故か私を庇うように抱き締めていたのだ。

(…どう……して、この人が、私を―…?)
「その女を助けようとしたって無駄だぜ“ボンゴレ10代目”。お前は今此処で、その女と死ぬんだからな」

男達の銃口が一斉に私達へと向けられた。

(私、此処で死ぬの?訳の分からない事に巻き込まれて……このまま?)

父と母。大好きだった祖母の姿が脳裏に浮かんだ。

(誰か……助けてっっ)

私は男性の胸に顔を埋め、ぎゅっとシャツを握り締めた。
瞬間、私を抱く男性の腕に力が籠もる。

「…大丈夫。君は俺が、守ってみせる…」

ドクン

刹那。今までに感じた事のない胸の痛みが私を襲った。

『コノヒトヲ ウシナッテハ イケナイ』

同時に私の中で“何か”がそう叫んで。

『名前、歌はね、世界を救うのよ…』

不意に過ぎった祖母の声。
私は形見のペンダントを両手で握り締めた。

世界なんて大それた望みは持っていない。
それでも、もし本当に歌で救えるモノがあるのなら、私は…、
私はね、おばあちゃん。

この人を──守りたい。


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