祖母が亡くなってからは、一度も口ずさむ事のなかった、あの歌を…。
(おばあちゃん、私に力を貸して。私、沢田さんを助けたいの…)
沢田さんを助けたい。その一身で私は思いの丈をこの歌に込めた。感情が高ぶる余り、自然と涙が頬を伝う。長い長い時間が過ぎたように感じた。
全ての歌を歌い終わるとフッと身体の力が抜けて行く。前のように気を失う事はなかったけれど、駄目だ、立って……居られない…。グラリ。視界が揺れて身体が傾く。
瞬間、倒れ掛けた私の身体を誰かが支えてくれた。閉じ掛けていた瞼を必死に開けて相手を見る。
「――ど…、して」
愕然とした。何故なら私の身体を支えていたのが、あの黒フードを被った人物だったから…。
ただでさえ力の入らない身体は相手の思うがままだ。強く抱き締められて逃げる事も出来ない。
思うように歌姫の力が使えない自分が腹立たしい。これじゃあ前と何も変わらない。何も出来ない役立たずのままだ。悔しさの余り涙が溢れた。
「どうか泣かないで」
でもその涙を何故か目の前の人が拭ってくれる。
それにも驚いたけれど、もう一つ驚く事が…。
(変声期で変えていない今の声。…何処かで聞いた事がある…)
私はふっと顔を上げた。至近距離で見上げた為に、フードの中から相手の顔がはっきりと見え、
「素晴らしい歌声ですね、名前…」
この声。この顔。見間違える筈がない。私も良く知るあの人と同じ…。
「雲、雀…さん?」
その問いに、彼は穏やかに微笑むだけだった。
真の目的
(違う。雲雀さんはこんな風に笑ったりしない。じゃあこの人は…誰?)
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