[携帯モード] [URL送信]
37.真の目的 **


気が付くと、その人は沢田さんの目の前に――。



「お前をその気にさせれば良いんだ、なっっ」



敵の放った拳が沢田さんの腹部に直撃する。



「うわああっ!!!」



沢田さんはその反動で吹き飛ばされ、身体ごと近くの木にのめり込んだ。



「沢田さぁあん!!!」



私は咄嗟に彼の元に走り寄ろうとする。けれど。



「何処へ行くのです」

「っっ――」

「貴女の相手は私だ」



もう一人の人物が目の前に立ちはだかった。

恐怖の余りに足が竦む。でもその人の後ろで苦しそうに蹲る沢田さんを見て、私はキッと黒フードの人物を睨み上げた。



「いきなり攻撃なんて………卑怯ですっっ」

「貴女は自分の立場が分かっていないようですね。私達に刃向うなど…」

「関係ない!!!」



私は唇を噛み締める。自分がどうなるとか、そんな事は関係ないんだ!

私は弱くて、沢田さんを守る為に戦う事なんて出来ないけど、でもだからって大切な人が傷付けられているのに黙って見ているなんて出来ない!



「そこを退いて下さい」

「…嫌だと言ったら?」

「意地でも退かせます」



私は胸の前で手を組み、静かに瞳を閉じた。

本当は余り使いたく何てない。何が起こるか分からないから…。でも、今力を使わなくて何時使うの?沢田さんを、沢田さんを守らなければ…。

すぅと息を吸い込こみ、私は歌を奏で始める。



(自分を信じて。歌姫の力を信じて…)



夜の庭に自分の歌声が響き渡る。こんなに気持ちを込めて歌ったのは何時振りだろうか…。

確かあれは、おばあちゃんが息を引き取る寸前。





『泣か、ないで…名前。貴女は何時も笑顔で居なきゃ…ダメよ。………ねえ、私に貴女の歌を聞かせて。想いの沢山篭もった……名前の歌を』






あの時、私はまだ中学生で…。どうしてこんな時に歌わなければいけないのか、正直迷った。

でも何時も通りの穏やかな表情を浮かべる祖母の姿に、私は涙を流しながら大好きだった歌を歌ったんだ。初めて祖母から教えて貰った、大好きだった、あの歌を…。



『……―――』



気付くと私は、その歌を口ずさんでいた。


[←][→]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!