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05.ファミリー ***

≪side 綱吉≫
「今日は取りあえずこの部屋を使って下さい」

食事会を終え、綱吉は急拵えで用意させた客間に雲雀を案内した。
雲雀の事だ。用が済めば直ぐに並盛へ帰るだろうと踏んでいたのに…。
それがまさか夕食を共にし、挙げ句イタリアに暫く滞在すると言うなどと。
普段の雲雀らしからぬ行動の数々に流石の綱吉も困惑していた。

「明日雲雀さん用にきちんとした部屋を用意させますから」
「…いや、この部屋で構わないよ」

部屋に足を踏み入れた雲雀は取り立てて荷物を持ってきた様子もない。
やはり雲雀本人は長居をするつもりはなかったようだ。

「滞在日程は決めてるんですか?」
「さあ?僕の気が済むまで…かな?」
「そんなに並盛を離れて大丈夫なんですか?」
「向こうには鉄もいるしね。心配はないさ」

雲雀はベッドに腰掛けるとネクタイを少しだけ緩める。
その様子を眺めながら、何ともミスマッチな光景だと綱吉は苦笑を浮かべた。
本来何事にも和風を好む雲雀。
洋風のこの部屋では落ち着かないだろうから、やはり新しく部屋を用意させて方が良さそうだ。
そんな事を思いながら踵を返そうとした綱吉だったが、

「彼女に言わなくて良かったのかい」

背後から掛けられた言葉に、その足を止める。

「話しならさっきしたじゃないですか」
「君達の事じゃないよ。彼女自身の話さ」

先程までの名前の姿が思い出された。
綱吉達の素性を聞いても気丈に振る舞ってはいたが、内心は動揺したに違いない。
かつて同じ経験をした事がある身としても、名前の気持ちは少しは解るつもりだ。

「…俺達(ボンゴレ)の事だけでも相当驚いたと思いますから──」

その上、自分が関わっているかも知れない事まで迂闊に話せない。
名前の心の為にも責めて時間を置くべきだと綱吉は考えたのだ。
それには雲雀も同感だったのだろう。
それ以上彼が追求してくる事はなかった。

「それにしても彼女の前だと随分大人しいんだね、沢田綱吉」

追求してくる事はなかったが、何やら雲行きが怪しい。
綱吉が視線だけを後ろに向けると、珍しく雲雀が笑っていた。

「僕はまた昔のような草食動物にでも戻ったのかと思ったよ」

どう見ても雲雀は綱吉の様子を楽しんでいるように見える。

「そうですか?俺はいつも通りですけど?」
「そうかな?ここ数年の君にしては随分殺気が薄らいでいるようだけど?」

彼女が来てからだと雲雀は言いたいのだろうが、実は確かにその通りだった。
名前を怖がらせないよう、出来る限り雰囲気を昔の自分に戻していたのだ。
今のところ気付いていたのはリボーンだけだったのだが、また厄介な相手に感づかれたものだ。

「雲雀さんこそ、随分と名前を気にかけてるみたいじゃないですか」

やられっぱなしは癪なので、少しくらいは反撃しても構わないだろう。

「何か貴方の心を刺激するような事でもあったんですか?」
「…そうだね。刺激は…されたかも知れないな」

口元に笑みを浮かべる雲雀の姿に、綱吉は小さくため息をもらした。
『強さ』意外に雲雀が他人を気に入る事はまずない。
それは自分然り、リボーン然りだからだ。

しかし名前はその定義には当てはまらない。
ならば彼女の何にひきつけられているのか。
出逢って間もないというのに、一体名前は雲雀に何をしたのか。


ファミリー
(名前と出会って色々なモノが変わり始めた)


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