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05.ファミリー **

「それではこの間の黒尽くめの男性達も…その、同業の方って事だったんですね」

拳銃などという物騒な物を所持していた理由がこれで分かった。
きっと彼らこそが世間がイメージするマフィアそのものなのだろう。
そこでふとある事を思い出す。

「そう言えばあの人達が何かを欲しがってるって沢田さん仰ってましたよね?」
「ああ。あの時は詳しく話せなかったけど…、今なら良いか」

そう言って沢田さんが見せてくれたのは、彼が指に填めた”ある物“。

「指輪?」
「そう。代々ボンゴレファミリーが継承している、ボンゴレリング」
「貴重なもの、なのですか?」
「どうかな。調べた事がないから解らないけれど、持つべき者が手にすれば──」

沢田さんが指輪を填めた手をグッと握り締める。
瞬間、そのリングからオレンジの炎が燃え上がった。

「大きな力となる」

ゆらゆらと不規則に揺れる炎。
私は驚きの眼差しでその炎を見つめた。

「マフィアに伝わる死ぬ気の炎だ。それを具現化出来るのが、このリング」

近年のマフィア間での抗争には、このリングが必要不可欠なのだと沢田さんは語る。
リングはAからDまでにランク分けされており、上位ほど希少性が高いと言う。
つまり他の組織に狙われる程のリングという事は──、

「ボンゴレリングは中でも更に希少とされる“ランクAオーバー”に分類される」

そう言って沢田さんは周りを見回した。
その視線を追いかけ、私は瞳を見開く。
何故なら、そこにいた他の4人の指にもリングの炎が灯されていたから。
獄寺さんは赤、山本さんは青、笹川さんは黄、雲雀さんは紫。
デザインは違えど彼らの指に填められているのも紛れもなく、ランクAオーバーのボンゴレリングだった。

「希少な指輪が5つも…」
「いや、俺達の他にあと二人、ボンゴレリングの保持者がいる」
「お二人も?」
「ああ。リングはファミリーのボスを含んだ“守護者”と呼ばれる7人だけが持つこ事を許されてる」

そう言えば、初めてお会いした時に沢田さんが『守護者を招集する』と仰っていたのを思い出す。
あれは雲雀さんや笹川さんの事だったのかと、密かに納得しかけたのだけど、

「…僕はそんなものを引き受けた覚えはないけどね」

一人日本酒を嗜(たしな)まれていた雲雀さんがポツリと囁いた。
どういう事なのかと沢田さんに視線を向ければ、彼は慣れた様子でただ微笑むだけ。

「守護者っつっても、仲間とは限らねーってことだ」

嫌悪感を隠すことなく、そう吐き捨てたのは獄寺さんだった。
彼の様子からして、ファミリー内で何らかの確執のようなものがあるように感じた。
先ほどの雲雀さんは勿論、この場に顔を出さない二名にも何か理由があるのだろうか。
踏み込んだ質問をしても良いのか躊躇いはしたが、やはり気になってしまう。

「あの、他のお二人というのは…」
「ん?ああ、一人はまだ未成年でね、今は日本に住まわせているんだ」
「そうなのですか?」
「ここより治安は良いし、何よりランボには青春時代を応化して貰いたかったからな」

きっと名前の出たランボくんというのがボンゴレの守護者と呼ばれる一人なのだろう。
その若さには驚いたが、日本に住んでいるという事は、対面するのは難しいかも知れない。
それよりも彼との関係は円満のように感じて、私は安堵した。
それならばと、最後の一人の事もお窺いしようとしたのだけれど、

「…彼の事はどうでも良いよ」

何故か機嫌の悪くなった雲雀さんに遮られてしまう。

「…そんな事より沢田綱吉、ここって確かまだ部屋の空きがあるんだよね?」
「あります…けど、それが何か?」
「……僕も暫く滞在するよ」
『!!!』

室内が一瞬で静まり返った。
驚き、瞳を見開く沢田さん達の姿を訝しそうに雲雀さんは見つめる。

「…何?君達、その反応」
「い、いや…。てめーが並盛を離れるなんて、どういう風の吹き回しかと思ってよ」
「た、確かに獄寺の言う通りだな。まさか雲雀がここに残る何て…なあ?」

顔を見合わせ、困ったように眉根を寄せる獄寺さんと山本さん。
そんな二人を見ていると雲雀さんがここに残るという事が大変な事なのだと私にも理解が出来る。
そんな中、一人だけ優雅に食事を進めている方が居た。リボーンさんだ。
彼は用意された食事に手を付けながら雲雀さんに視線を向ける。

「随分気に入ったみてーだな、雲雀」
「…何のことだい、赤ん坊?」
「まだ本物だと決まった訳じゃねーぞ?」
「それが何?僕には関係のない事だよ」

ピリピリと張り詰めた空気が辺りに漂う。
困惑する私に助け船を出してくれたのは、やはり沢田さんだった。

「止めろリボーン。雲雀さんもその位にして下さい」

彼は小さくため息をこぼすと、私の後ろに立ったままの獄寺さんに目配せをする。
その合図を受け、獄寺さんが頷くと直ぐに部屋を出て行ってしまった。

「部屋は直ぐに用意させます。それで良いですよね」
「ああ」

満足げな雲雀さんの様子に私は安堵する。
リボーンさんもそれ以上追求する事はなく、穏やかな空気がまた部屋に戻っていた。

「雲雀が残るのなら、俺が残る必要はないな」

私は声のした方を振り返る。
そこには優しい眼差しでこちらを見つめる笹川さんがいて。

「笹川さんはお帰りになるんですか?」
「ああ。本当は俺が残る予定だったのだが、雲雀が残ると言うなら譲るしかあるまい」

──それに治安が良いとはいえ、日本に残したランボの事も心配だしな。
そう言葉を続ける笹川さんに私は「はい」と控え目に頷く。

「そんな顔をするな。俺は雲雀と違ってここには良く顔を出すのだ。近い内にまた直ぐ会えるさ」
「…はい…」

直ぐに会えるとそう言われても、やはり寂しいものは寂しい。
自分では気付かなかったけれど慣れない土地で心細いという気持ちが何処かにあったのだろう。
知り合って間もない人との別れまで、こんなにも不安に感じてしまうなんて。
寂しげに俯く私を見て、笹川さんは続けてこう言った。

「その時には妹の京子も連れて来よう!」
「京子…さん?」
「うむ。お前達なら直ぐに仲良くなれる筈だ!」

そう言ってニカッと笑う彼を見ていると、私も自然と笑みが零れた。

「………はい。楽しみにしています」
「よしっ、極限に良い笑顔だ!!」

やはり、この人の笑顔は太陽のようだ。


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