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05.ファミリー

その夜、屋敷では雲雀さんと笹川さんの為に夕食会が開かれる事になった。
バタバタと慌ただしく準備に勤しむお手伝いさん達に混ざって私も自分に出来る事を手伝わせて貰う。
準備も滞りなく進み、全員がダイニングに揃ったタイミングで食事が始まった。

普段ならば私もご一緒させて貰う事もあるが、今日は久し振りに揃って顔を合わせるとの事。
積もる話もあるだろうからと、私は遠慮する事にした。
食事は自室でとるつもりでいたし、そのまま部屋を出ようとしたのだけれど、

「名前もここに残って。聞いて貰いたい話がある」

沢田さんに呼び止められる。

「私にですか?」
「うん。雲雀さん達も来てくれた事だし、話すなら丁度良いと思って…」
「名前、ここに座れ」

そう言って獄寺さんが進めたのは、先ほどまで彼自身が座っていた椅子だった。
躊躇いはあったものの、有無を言わせぬ彼の瞳に私は素直に従う。
私が椅子に腰を下ろしたのを確認すると、沢田さんは静かに口を開いた。

「名前に聞いて貰いたい話っていうのは、俺達の事だ」

真剣な面持ちの沢田さんに、自然と背筋が伸びる。

「名前も薄々気付いているかも知れないけど、俺達は……所謂”一般人“じゃない」

──ボンゴレファミリーという、イタリアンマフィアだ。

「マ、フィア」

普段言い慣れない言葉のせいか、呂律が上手く回らない。
マフィアといえば映画やドラマの中で描かれるイメージはお世辞にも良いものとは言えない。
かくゆう私自身も同じイメージを持っていて、自分でも気付かない内に困惑の表情を浮かべていたのだろう。

「俺達の事、怖いと思う?」

凪いだ声で沢田さんがそう尋ねた。
少しだけ思案した後、私は静かに首を横に振る。

「もし初めてお会いした時にそのお話を聞いていたら、違った、かも知れません」

きっとあの黒尽くめの男達同様、彼らの事も恐ろしいと思ったに違いない。
けれど短い間ではあるが、私は彼らの人となりを見て来た。
悪い人か、そうでないかの分別くらいはつくつもりだ。

「でも今なら皆さんが信頼出来る方々だって解るから…」

──だから、怖くない。
笑顔でそう断言する私を見て沢田さんは一瞬驚いたように瞳を見開いたが、直ぐに顔を綻ばせた。

「誤解しないで欲しいのが、俺達がやっているのは治安維持の為の自警団みたいなものって事」
「自警団?」
「つまりテレビなんかでやってる犯罪組織とはちょっと違うって事だな」

そうつけ加える山本さんに、少し納得してしまう。
確かにテレビ等でイメージするマフィアと、沢田さん達とでは明らかに印象が違う。
ここ数日庭作業をさせて貰っていた私は、屋敷に出入りする地元住民の姿を何度か目撃した事がある。
皆両手いっぱいに野菜や果物を抱えてやって来ては、身軽になって帰って行く。
あれはひょっとすると住民からファミリーの皆さんへの感謝の表れだったのではないだろうか。

「ま、他の奴らは影で何やってるか解ったもんじゃねーがな」

ワインを堪能しつつ、ポツリと呟くリボーンさん。

「…余計な事言わなくて良い」

そんな彼に沢田さんから溜め息混じりの突っ込みが飛んでいたが、私は聞かなかった事にしようと思う。


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あきゅろす。
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