「彼なら今朝、見張りの部下を倒して屋敷から出て行ったよ…。…恐らく今日決着が着く事を直感したんだろうね。…今頃、君達の屋敷に戻ってるんじゃないかな?」
それを聞き、私はほっと息を吐く。良かった無事なんだ。でも安心したのと同時に少しだけ胸の辺りがモヤモヤした。
沢田さんにも事情があったのだろうけど、そんなに直ぐ抜け出せるなら、もっと早く逃げてくれれば良かったのに…。
拗ねたように唇を尖らせて居ると、不意に視界が開けた。雲雀さんが手を離してくれたらしい。
「もう平気?」
「あ、はい!ありがとうございました」
私は雲雀さんに向き直って、小さく頭を下げる。
それにしても、さっきの“あれ”は何…?まるで心を支配されるような、怖い感じがしたけど。
「…だったら此処から離れた方がいい。あの男が戻って来ないとも限らないからね…」
そう言われて辺りを見回すと、もうそこに彼らの姿はなく、静かな公園が姿を取り戻していた。
◇ ◇ ◇
「…ファルファッラさん、大丈夫かな…」
帰り道の途中。ぽつりと呟いた私の言葉に、前を歩いて居た雲雀さんがゆっくりと振り返る。
「…自分に銃を向けた相手の心配をするの?」
確かに雲雀さんの言う通りだ。でも雲雀さんが私を庇ってくれた時の、視界に入った彼女の辛そうな顔が、どうしても頭から離れない。思い出すだけで胸が苦しくなる。
「本当に雲雀さんの事が好きだったんですね」
「興味ないよ」
「少し…羨ましいです」
「…羨ましい?」
私は小さく頷いた。勿論、彼女のした事は許される事ではない。だけどそれは相手の事を強く想っていたからこそだ。そんな風に想える相手が私には居ないから…。
だから、羨ましいの。
「私も、そんな風に誰かを好きになりたい…」
彼女を見ていて本気でそう思った。本気で誰かを“愛したい”…と。
「……だったら――僕を好きになってみる?」
「・・・え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。顔を上げて雲雀さんを見ると彼は小さく笑みを浮かべて、再び一人で歩き出す。
その後ろ姿を見つめていると肩が微かに震えていて……ん?震える?小さな疑問が頭に浮かんだ。
――ま、まさか!
「ひ、雲雀さん///」
「何?」
「からかいましたね!」
「…さあ、どうかな?」
「どうかなって///」
――思い切り笑ってるじゃないですかぁー///
広がる 大空
空から柔らか光が降り注ぐ。数日続いていた曇り空はいつの間にか姿を消し、大空には綺麗な蒼穹が広がっていた。
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