恐怖の為、堅く閉じていた瞳を開けると目の前に居たのは――…、
「その顔は“目障り”だって言わなかったかい」
雲雀さんだった。
「ひ、ばり…さん?」
「何?」
涙が溢れて頬を濡らす。
「…雲雀…さ、ん」
「だから何?」
何度も、何度も、名前を呼んで確かめたい。
「雲雀さん!!!」
「何?……名前…」
「……っっ…」
名前を呼んで貰えた事が嬉しくて、私は雲雀さんの胸に顔を埋めた。涙でスーツが汚れるとか、そんな事、気にしていられなくて…。私の知っている雲雀さんが戻って来てくれた。その事実が嬉しくて。私はまるで子供のように泣きじゃくった。
そんな私を雲雀さんは咎める事もなく、ただ…優しく抱き締めてくれる。
「………」
けれど一瞬、雲雀さんの腕に力が籠もった。不思議に思って顔を上げると、彼は一点を睨みつけている。私もその先に視線を向けると……、
「どうやら記憶が戻ったみたいだね…」
そこに居たのは真っ白い男の人。誰だろう。雲雀さんのお知り合いかな?
「おめでとう…と、言うべきかな?雲雀チャン」
「………」
「そんなに警戒しなくても、歌姫チャンには手を出さないよ…今はね」
――わ、たし…?全く意味が分からない。
「あ、あの…雲雀さん、この方は――?」
今更だけど、どうやら声の方は完全に戻ったみたいだ。ほっ、と胸を撫で下ろす私だったけれど、この『白い人』の名前を聞いて…驚いた。
「嗚呼、自己紹介がまだだったね。初めまして、歌姫チャン。僕はミルフィオーレファミリーのボス、白蘭。宜しくね」
「!!!…びゃびゃっ」
白蘭て獄寺さん曰く『何考えてんのか分かんねぇ奴』の事じゃないですか!それに雲雀さん達と連絡が取れなくなったのも、この人の所に行ってからだった。つまり、この人はファルファッラさんの見方で、私達の…敵。
「ふふ、だから警戒しなくてもいいよ…。言ったでしょう?『今は手を出さない』…ってね」
白蘭さんは少し離れた場所で抜け殻と化しているファルファッラさんの元へ歩み寄ると、その身体をふわりと抱き上げた。
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