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31.晴れ 時々 晴れ **


(忘れた訳では無いでしょう。彼は…君の命を奪おうとしたんですよ)






『…死になよ歌姫』





(……っ…)



あの時の恐怖が一瞬で蘇る。同時に身体が小刻みに震え始めた。



(それでも君はあの男に会いに行きますか?)




私は膝の上で小さく震える二つの手を見つめる。確かに今の雲雀さんに会いに行けば、私はどうなるか分からない。それは……凄く怖い。怖いけれど彼の記憶を取り戻す為には会いに行かなくては何も始まらないのだ。



(……骸さん…)



これまで何の役にも立てなかった私。歌姫と言われて、彼らに守られてばかりだった私。そんなのは、もう嫌――っ!!

私は震える拳を握り締め、何かを決意するように立ち上がった。





(――私…雲雀さんに……会いに行きます)





今度は私が…皆さんのお役に立つ番です。




◇ ◇ ◇


その頃。自室で書類の続きに目を通していた獄寺は動かしていた手を止め、ふと窓の外に視線を向けた。空一面が黒い雲に覆われている。此処最近、ずっとこんな天気だ。太陽など、もう長い間見ていない気がする。

あの暖かい光が、無性に――恋しい…。



「…隼人?」



その様子を傍らで見て居たビアンキが、獄寺にそっと声を掛ける。



「どうかしたの?」

「……否…」



彼女の問いに獄寺は小さく首を振った。そして再び書類に視線を戻す。静まり返った室内にカサリカサリ…と書類の擦れる音だけが響く。



(太陽が恋しい何て俺の柄じゃねーだろ…)



そう苦笑を浮かべる獄寺だったが『恋しい』という言葉で再び手が止まる。彼の脳裏に浮かんだのは先程、名前が見せた悲しげな表情…。



(…そういや最近、あんな顔見てばっかだな)



自分達の前では何時も通り、明るく振る舞って居る名前…。けれど、その内心は不安で一杯の筈だ。先程のように時折見せる悲しげな表情が、それを物語っていた。


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