29.霧の掛かった 心 ***
クフフフフ…奇妙な笑い声を洩らしながら、パイナップルは霧のように消えて行った。残された雲雀の機嫌は最悪だ。パイナップルに助言された事が悔しくて仕方ない。
けれどあの男の言う通り、歌姫に会う事で何かを思い出せるのなら…。
「…もう一度、会いに行ってみようか」
彼女を咬み殺す為ではなく、己の記憶を取り戻す為に――…。
◇ ◇ ◇
「…僕とした事が、柄にも無い事をしてしまいましたね」
意識の戻った骸は小さく笑みを零す。まさか雲雀恭弥の手助けをしてやる日が来ようとは…。
「名前…君と出会ってからは、信じられない事の連続ですよ」
これも全ては声を無くした歌姫の為…。彼女が声を失ったと連絡を受けた時、心臓が止まるかと思った。あの声で名前を呼ばれる事はないのか。あの美しい歌声を二度と聞く事が出来ないのか。
あの時ばかりは流石に冷静さを失ってしまった。けれど雲雀を連れ戻せば彼女の声も戻るかも知れない。そう獄寺に言われて骸は幻術を使って雲雀と接触する事にした…かなり不本意だったが。
そして彼と接触して分かった事。それは雲雀自身が無意識の内に彼女を覚えていた事だ。
記憶を失っても尚、雲雀の心に深く刻み込まれる名前の存在…。彼が最も愛する“並盛”の事ですら、頭の片隅にも無かったと言うのに。
『……どうして僕が後悔するのさ?』
不意に雲雀の言葉が頭を過ぎる。――どうして、ですか…。それは僕が聞きたいですよ。
霧の掛かった 心
(……雲雀恭弥。君は名前の事をどう思っているのですか?)
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