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29.霧の掛かった 心 **


光速の如く攻撃を仕掛けた雲雀だったがパイナップルは慣れた手つきでトンファーを受け止めた。



「成る程。記憶を失っていても身体は覚えている…という訳ですか」

「…君、誰?どうして僕の事を知ってるの?」

「そんな事は自分で思い出して下さい。君に教える義理など有りませんし、二度も名を名乗るのは面倒ですからね」



ムカツク。ムカツク。ムカツク。ムカツク。

雲雀はムスッとしながらトンファーを投げた。カキン。当然、避けられる。やっぱりムカツク。



「南国果実の癖に…」

「…その呼び方、普段以上に腹が立つのでさっさと思い出して下さい」

「出来る事ならやってるよ。でもどうすれば良いのか……分からない」



雲雀は弾かれたトンファーを拾いながら、小さな声で呟いた。けれど、



「君は何の為に記憶を取り戻したいのですか」



逆に聞き返される。パイナップルの問いに雲雀は顔上げた。何の為?そんな事決まってる。自分が何者なのか知りたい―…から、で…。



(……否、違う)



自分の事は二の次だ。本当は…あの声が、自分を呼ぶあの声が誰のモノなのか、それを知りたい。その人物が自身に取ってどういう存在だったのか、それを知りたいのだ。



「「………」」



そんな雲雀の気持ちを読みとり、パイナップル―…六道骸は静かに瞳を閉じた。目の前に浮かぶのは何時も微笑みを絶やさない、愛しい人。



(君はどれだけ僕らに取って大切な存在になるつもりですか…名前)



骸は思う。例え雲雀のように記憶を失ったとしても、彼女の事だけは忘れたくない――。骸はふっと口元に笑みを浮かべて、三叉槍の柄でトンと床を突いた。その瞬間、彼の姿がぼやけ始める。



「さっきも言いましたが、記憶を取り戻したいのならもう一度歌姫に会う事です。そうすればきっと何かを思い出せる」



次第に影の薄くなるパイナップルを雲雀はギロリと睨み付けた。



「…次に歌姫に会う時は――彼女を殺すよ?」

「出来るならどうぞ。彼女に手を掛けて後悔するのは君の方ですからね」

「……どうして僕が後悔するのさ?」

「どうして、ですか…それも自分で思い出して下さい、雲雀恭弥――」


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あきゅろす。
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