『…ひ…、りさん…』
――誰?
『……雲雀さん…』
――誰何だい?
『雲雀さん』
――僕を呼ぶのは誰?
カーテンの隙間から朝日が射し込み、小鳥のさえずりで目が覚める。
(……また、あの夢…)
雲雀はゆっくりと目を開けた。ここ数日、毎日繰り返される不思議な夢。顔の見えない誰かがずっと自分の名を呼び続けている。あれは誰?どうして僕を知ってるの?雲雀はベッドに寝転んだまま、高い天井を見上げた。
(彼女と………歌姫と会ってからだ)
あの日見た彼女の顔が。彼女の涙が。頭の中から離れない。どうしてこんなに気になるのだろう。どうして夢の声と彼女が重なるのだろう。
『雲雀さん』
すると又あの声が頭の中で響いた。同時にズキリと痛みが走る。
「…くっ、」
苦しげに声を洩らしながら、雲雀はふとある事に気付いた。
(……声が、日増しに大きくなってる――)
初めは微かに聞こえる程度だったのに、今でははっきりとその声が聞き取れるようになった。これは一体、何を意味するのだろうか…。
「もう一度彼女に会えば何か思い出せるかも知れませんよ…」
雲雀はハッと顔を上げる。誰も居ない筈の室内に、聞き覚えのない男の声が響いたのだ。瞬時にトンファーを構え、声の主を探す雲雀。そして、部屋の隅に違和感を感じて視線をやると――…。
「……南国果実…」
「…失礼な男ですね」
パイナップルが…居た。三叉槍を持ったパイナップル。でも何故だろう。初めて見る顔なのに、
(……無性に腹が立つ)
――咬み殺したい。
雲雀はゆらりとベッドから起き上がり、パイナップルと間合いを詰める。
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