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29.霧の掛かった 心


『…ひ…、りさん…』






――誰?





『……雲雀さん…』






――誰何だい?





『雲雀さん』






――僕を呼ぶのは誰?









カーテンの隙間から朝日が射し込み、小鳥のさえずりで目が覚める。



(……また、あの夢…)



雲雀はゆっくりと目を開けた。ここ数日、毎日繰り返される不思議な夢。顔の見えない誰かがずっと自分の名を呼び続けている。あれは誰?どうして僕を知ってるの?雲雀はベッドに寝転んだまま、高い天井を見上げた。



(彼女と………歌姫と会ってからだ)



あの日見た彼女の顔が。彼女の涙が。頭の中から離れない。どうしてこんなに気になるのだろう。どうして夢の声と彼女が重なるのだろう。



『雲雀さん』




すると又あの声が頭の中で響いた。同時にズキリと痛みが走る。



「…くっ、」



苦しげに声を洩らしながら、雲雀はふとある事に気付いた。



(……声が、日増しに大きくなってる――)



初めは微かに聞こえる程度だったのに、今でははっきりとその声が聞き取れるようになった。これは一体、何を意味するのだろうか…。





「もう一度彼女に会えば何か思い出せるかも知れませんよ…」






雲雀はハッと顔を上げる。誰も居ない筈の室内に、聞き覚えのない男の声が響いたのだ。瞬時にトンファーを構え、声の主を探す雲雀。そして、部屋の隅に違和感を感じて視線をやると――…。





「……南国果実…」

「…失礼な男ですね」





パイナップルが…居た。三叉槍を持ったパイナップル。でも何故だろう。初めて見る顔なのに、



(……無性に腹が立つ)



――咬み殺したい。

雲雀はゆらりとベッドから起き上がり、パイナップルと間合いを詰める。


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