≪side 雲雀≫
会わせたい人が居る。
そう言われてイタリアに呼ばれたのは3日前の事だ。
ボンゴレの連中と群れるつもりは毛頭なく、大人しく従うつもりも義理もなかったが、
『名字名前が来る』
そう言われて、気が変わった。
綱吉達がある女性を気に掛けているのは知っていたし、それが名字名前という名だと言う事も聞いていた。
けれど雲雀にとってはその程度。
その程度の事、だった筈なのだ。
歌姫と呼ばれる女性の逸話を聞くまでは…。
元来雲雀恭弥という人物は探究心の強い男だった。
その存在に興味を持ったのも研究対象として探りたいと思ったから。
長らく現れる事のなかった未知の存在。
その筆頭候補として名を上げられる人物がついに顔を見せる。
(こんな所まで呼びつけて、たいした収穫もないようなら承知しないよ──沢田綱吉)
愛すべき並盛を離れてまで、わざわざ足を運んだのだ。
空振りに終わるようなら、ただでは済まさない。
(さあ、その場合はどうやって彼を咬み殺そうか…)
はやる気持ちを押さえつつ屋敷までの道のりを歩いていた時だ。
それまで肩に止まって大人しくしていたヒバードが急に何処かへ飛んで行ってしまう。
普段の雲雀ならば、その後を追ったりはしないのだけど、何故か今日は違った。
無意識に足がそちらへ向いたのだ。
暫く歩き続けると、昔ヒバードに教えた並盛の校歌が聞こえて来て、雲雀は足を止める。
少しズレた聞き覚えのある鳥の声と、もう一つ。
とても澄んだ綺麗な歌声。
並中の校歌をここまで美しく歌い上げる人物を雲雀は知らなかった。
止まっていた足が再び動き出す。
歌声だけを頼りに声の主へど辿り着いた時、雲雀の目に飛び込んで来たのは穏やかに微笑む一人の女性。
「あれが沢田綱吉の言っていた“会わせたい人”」
そしておそらく歌姫の筆頭後継者と言われる──名字名前。
それまで全く無かった彼女自身への興味が一気に沸き上がった瞬間だった。
雲と晴の守護者
(名字名前…。聞かせて貰うよ、君の歌を…)