[携帯モード] [URL送信]
04.雲と晴の守護者

イタリアに滞在してから5日が過ぎた。
その間、現在の状況がどうなっているのか私の耳に入って来ることはなくて。
心配させないよう沢田さん達が気を使ってくれている事が解る。
こちらでの暮らし自体に不安はなく、私の護衛について下さっているという獄寺さんや山本さん。
そして万全な屋敷の防犯システムのおかげで、心配なく過ごさせて貰っていた。

『ここに滞在してる間は、ゆっくり過ごすと良い』

沢田さんにはそう言われたけれど、何もしないというのはどうにも落ち着かない。
そこで自分に出来る事をと、初日に山本さんに案内して貰った庭の手入れを申し出た。
勿論、私に出来る事といえば簡単な作業になってしまうけれど、それでも何かのお役に立ちたくて。
私の突然の申し出に始めこそ驚いていた沢田さんだったが、二つ返事で了承してくれた。
作業し易いようにと、つなぎ服まで用意して下さり、私は現在絶賛庭作業の真っ最中。
土を触っていると自然と気持ちも晴れやかになり、鼻歌まで飛び出す始末。
ほんのり額に汗しつつ、上機嫌で草むしりを続けていた時の事だ。

「ミ〜ドリタナ〜ビク〜、ナミモリノ〜♪」

どこからともなく歌声が聞こえてきた。
私は作業の手を止め、キョロキョロと辺りを見渡す。
瞬間、パタパタと目の前を黄色い物体が横切った。

「……小鳥?」

突然現れた可愛いらしいお客様に私は目を見開く。
しかもその小鳥が「ハクシュ ハクシュ」と喋ったモノだから更に驚いた。
パタパタと私の周りを飛び回る小鳥に、すっかり作業の手も止まってしまう。

「人に馴れてるみたいだし、飼われてるのかな?」

試しに人差し指を差し出してみる。
案の定、小鳥はその指に止まり、チョンチョンと指の上を動き回る。

「ふふ、可愛い」
「ヒバリ ヒバリ」
「ひばり?」

この小鳥の名前だろうか?
それによくよく考えてみれば、小鳥の話す言葉は日本語だ。
となると、その飼い主も日本人の可能性が高いという事になる。
それにこの子は一体どこからやって来たのだろう。
飼い主とはぐれてここまで飛んで来てしまったのだろうか?

「迷子…かな?一緒に飼い主さんを探してあげられれば良いのだけど…」
「ミ〜ドリタナ〜ビク〜、ナミモリノ〜♪」

心配する私を余所に小鳥は再び歌い始める。
歌詞を聴く限り、やはり日本の歌だが、全く聞き覚えがなかった。

(もしかすると沢田さん達なら何かご存知かも知れない)

イタリアで日本語の歌を歌う鳥となれば相当珍しい筈。
私用で少しの間側を離れている獄寺さんか山本さんが戻った時に聴いてみよう。
ただ相手は自由な翼を持つ生き物だ。
彼らが戻るまで小鳥がここに居てくれれば良いのだけれど…。

そんな私の心配は杞憂に終わる事となる。
作業を再開させた私の肩や頭の上で、小鳥は楽しそうに歌を歌い続けていた。
おまけに何度も何度も繰り返すものだから、気が付くと私まで口ずさめるようになっていて。

「緑たなびく 並盛の 大なく小なく 並がいい」

どこまでも澄み渡る空の下、私は小鳥と音色を奏でた。
小鳥も楽しそうに私の周りを旋回していたのだけれど、突然パタパタと何処かへ飛んで行ってしまう。

「ま、待って!」

急にどうしたのだろうかと、慌ててその姿を視線で追い掛け、振り向いた瞬間だった。
私の前に一人の男性が現れたのは──。


[←][→]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!