こうしてボンゴレには新たに歌姫が誕生した。
まだまだ半人前の彼女だけれど、ボスや守護者に見守られながら少しづつ成長して行く事だろう。
大好きだった祖母のように、立派な『歌姫』になる為に――…。
「どうして“あの事”をアイツらに言わなかったんだ?…ツナ」
綱吉の部屋。頼まれていた資料を持って彼の自室を訪れたリボーンは開口一番にそう問い質した。
当然、綱吉は「何の事?」――と不思議そうに首を傾げている。
「惚けても無駄だぞ。9代目が言ってた事だ」
「あはは。やっぱりリボーンには言ったんだ9代目。俺だけに教えるって言ってたのにな〜」
満面の笑みを浮かべながらも全身にドス黒いオーラを纏う綱吉。そんな元教え子をリボーンは呆れたように見つめていた。
「……で?どうして言わなかったんだ」
「リボーンだって言わなかったじゃないか。…それって、お前も秘密にして置いた方が良いと思ったからだろ…?」
綱吉の問いにリボーンはふっと口元を綻ばせる。それを肯定と受け取り、綱吉は「やっぱりな」と笑みを深くした。
「リボーンもフェアじゃないと思うだろ?『守護者だけ』…何てさ」
「さぁな。しかし、それとこれとは話が別だ。先代が守って来た掟をオレ達で変える訳には…」
いかない…。そう続く筈の言葉はトントンという、書類の束を整える音で掻き消された。
綱吉の行動にリボーンは訝し気な顔をする。彼が言葉を遮るという事は?
「…おい、まさか…」
「当然だろ。その歴史、俺が変えてみせるよ」
代々継承されて来た掟を変えるだと?ふざけた事を言うな!!!――そう怒鳴りたくとも、目の前で微笑む元教え子からは一切冗談が感じられない。ならば尚更悪いだろうとリボーンは瞳を細める。
「……自分が何言ってるか分かってんのか?」
「当たり前だろ」
「だったらボスとしての自覚が足りねーのか」
「ご心配なく。それもちゃんとあるから…」
ある訳がない。出なければ“そんな事”は絶対に口に出来ない筈だ。
「……ツナ…、お前…アイツが此処へ来た時、何て言った?」
「『人の気持ちは変わるモノだ』と言ったのはリボーンの方だけど?」
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